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「満佐の優しさや愛情深いところは、吉之助に受け継がれています」松坂慶子(西郷満佐)【「西郷どん」インタビュー】

 薩摩藩主・島津斉彬(渡辺謙)の周辺で少しずつ時代が動き始める中、吉之助(鈴木亮平)が結婚。だがその一方、祖父・龍右衛門(大村崑)、父・吉兵衛(風間杜夫)、母・満佐が相次いで亡くなり、吉之助は文字通り西郷家の大黒柱となった。吉之助を愛情深く見守ってきた満佐を演じた松坂慶子が、クランクアップを迎えた心境や撮影の舞台裏を語ってくれた。

西郷満佐役の松坂慶子

-撮影を終えた今のお気持ちを聞かせてください。

 寂しいですね。7月の暑い最中に撮影が始まってから6カ月、どっぷり漬かった感じでしたから。満佐は四男三女のお母さんで、赤ちゃんもいましたし、第1回は子役も一緒だったので、アットホームな現場でした。西郷家は貧しい家なので、板の間に裸足で正座するシーンも多かったのですが、みんなで我慢大会をしながら子どもたちもよく頑張ってくれました。

-クランクアップはロケでしたが、スタジオでの撮影が終わった時の様子は?

 西郷家のセットには木の上のツリーハウスみたいな場所があって、以前から「上らせてほしい」とお願いしていたんです。でも、スタジオの撮影が終わった日に、「今言うのも恥ずかしいな…」と思っていたら、スタッフが「上りますか?」と声を掛けてくれて(笑)。喜んで上ったら、子役たちも「私も、僕も」という感じになって、みんなで木の上から西郷家を眺めました。楽しかったです。

-大家族の西郷家を支える満佐を、どんな女性と考えていましたか。

 時代考証の原口(泉)先生からお話を伺ったり、いろいろな場所を見学したりして、優しいだけの人ではないということがよく分かりました。「薩摩隼人は薩摩おごじょがつくる」というせりふもありましたが、将来の薩摩を担う人材を育てるという自覚を持っていたんだなと。ある意味、一家のリーダー的な感じで、見習うところが多い女性でした。

-満佐を演じた中で、印象に残った場面は?

 一番難しかったのは、第1回でけがをして刀を持てなくなった小吉(後の吉之助/渡邉蒼)のために、「自分の両腕をやってください」と氏神様にお祈りする場面。息子を思う母の深い愛情を、どう表現したらいいのかと…。台本を読んだ皆さんが「あそこはいいシーンですね」とおっしゃっていたので、プレッシャーでした。家でも夜、方言指導のCDをかけながら練習していたのですが、娘たちの部屋にも聞こえたようで、一緒に心配してくれました。無事に終わったと報告したら、彼女たちもホッとしていました(笑)。

-満佐から見て、吉之助はどんな息子だったのでしょうか。

 満佐の優しさや愛情深いところは、吉之助に受け継がれていますよね。禄(ろく)を頂いても、貧しい百姓の娘が売られていく様子を目の当たりにすると、自分の家族がおなかをすかせて待っているのに、全部渡してしまったり…。見て見ぬふりができない。そういう人の痛みが分かるところが、後の「敬天愛人」(西郷が大事にした言葉)にもつながるのでしょうけど、それも全て、子どもを大事にする愛情深い家族に育てられたおかげではないでしょうか。

-吉之助を演じる鈴木亮平さんの印象は?

 若い頃はいろいろ苦労もされたようですが、視野が広くて、そういう経験がすべて生きていますよね。「大器晩成」という言葉がありますが、そんな器の大きさを感じます。存在感があって、自然体で…。グローバルな今の時代に合った新しいタイプの俳優で、アメリカでも中国でも、どこに行っても大丈夫な気がします。これからまたいろいろな出会いを重ねて大きく成長していくのでしょうけど、年齢を重ねてさらに味のあるいい俳優になることを楽しみにしています。

-35年ぶりに風間杜夫さん、平田満さんと『蒲田行進曲』(82)の3人がそろった感想は?

 当時は私にとってとても大変な作品でしたし、みんな日々の撮影で頭も気持ちもいっぱいだったので、ほとんど私語を交わしたことがなかったんです。だから、今回ご一緒していろいろな話ができたのは楽しかった。お二人とも孫がいらっしゃるので、そんな話もして、俳優としてだけでなく、人間としてのお二人にも触れることができました。風間さんも平田さんも、いい年の重ね方をしていらっしゃって、すてきな俳優さんだなと思って。また3人で共演できたらいいですね。

-風間さんとの夫婦役はいかがでしたか。

 風間さんは、黙っていると川端康成の小説に出てきそうな二枚目ですけど、面白いこともできるギャップがあって、すごくチャーミングですよね。話を聞いたら「僕は助走なしに駆け上がれちゃうんです」と言うんです。本当にそうだなと思って。テンションの高いお芝居が急にできるんですよ。お父さんが急に「ガハハハハ」と笑うような場面は、「いっぺんに駆け上がったな」と思いながら見ていました(笑)。逆に私はそこにいくまで時間がかかるのですが、「慶子さんは映画女優だから、集中力がありますよね」なんて言われて、「なるほどな」と。

-第7回で、満佐は吉之助の背中で最期を迎えました。どんな気持ちで演じましたか。

 最後は「桜島が見たかった」と言って、吉之助に背負われていきますが、よく晴れた日に錦江湾に浮かぶ美しい桜島を見て、いとおしい子どものそばで一生を閉じることができる。思い残すことはないという満ち足りた気持ちでいたことでしょう。吉之助も立派に育ってくれましたし。ただ、吉之助は情にほだされやすいところがあるから、そこに気を付けて、これからは自分の好きなように生きなさいと。最後にそんなことを伝えましたが、悲しさよりも励まして送り出すという気持ちを大事にして演じました。

-最後に、「西郷どん」に出演した感想を。

 大河ドラマは大きな作品なので、出演できるのは光栄ですが、プレッシャーもあって最初は緊張していたんです。それが、鹿児島で地元の方たちから励まされ、現場に入って連帯感が生まれてくると、次第に氷が溶けていくように緊張感が和らいで、気持ちが温かくなっていきました。だから、今は最高に温かな気持ちです。みんなで夏からずっとやってきたので名残惜しいですが、「あとは頑張って」という気持ちで千秋楽を迎えることができました。いい経験になりました。

(取材・文/井上健一)

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