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若い頃はいろいろ苦労もされたようですが、視野が広くて、そういう経験がすべて生きていますよね。「大器晩成」という言葉がありますが、そんな器の大きさを感じます。存在感があって、自然体で…。グローバルな今の時代に合った新しいタイプの俳優で、アメリカでも中国でも、どこに行っても大丈夫な気がします。これからまたいろいろな出会いを重ねて大きく成長していくのでしょうけど、年齢を重ねてさらに味のあるいい俳優になることを楽しみにしています。
当時は私にとってとても大変な作品でしたし、みんな日々の撮影で頭も気持ちもいっぱいだったので、ほとんど私語を交わしたことがなかったんです。だから、今回ご一緒していろいろな話ができたのは楽しかった。お二人とも孫がいらっしゃるので、そんな話もして、俳優としてだけでなく、人間としてのお二人にも触れることができました。風間さんも平田さんも、いい年の重ね方をしていらっしゃって、すてきな俳優さんだなと思って。また3人で共演できたらいいですね。
風間さんは、黙っていると川端康成の小説に出てきそうな二枚目ですけど、面白いこともできるギャップがあって、すごくチャーミングですよね。話を聞いたら「僕は助走なしに駆け上がれちゃうんです」と言うんです。本当にそうだなと思って。テンションの高いお芝居が急にできるんですよ。お父さんが急に「ガハハハハ」と笑うような場面は、「いっぺんに駆け上がったな」と思いながら見ていました(笑)。逆に私はそこにいくまで時間がかかるのですが、「慶子さんは映画女優だから、集中力がありますよね」なんて言われて、「なるほどな」と。
最後は「桜島が見たかった」と言って、吉之助に背負われていきますが、よく晴れた日に錦江湾に浮かぶ美しい桜島を見て、いとおしい子どものそばで一生を閉じることができる。思い残すことはないという満ち足りた気持ちでいたことでしょう。吉之助も立派に育ってくれましたし。ただ、吉之助は情にほだされやすいところがあるから、そこに気を付けて、これからは自分の好きなように生きなさいと。最後にそんなことを伝えましたが、悲しさよりも励まして送り出すという気持ちを大事にして演じました。
大河ドラマは大きな作品なので、出演できるのは光栄ですが、プレッシャーもあって最初は緊張していたんです。それが、鹿児島で地元の方たちから励まされ、現場に入って連帯感が生まれてくると、次第に氷が溶けていくように緊張感が和らいで、気持ちが温かくなっていきました。だから、今は最高に温かな気持ちです。みんなで夏からずっとやってきたので名残惜しいですが、「あとは頑張って」という気持ちで千秋楽を迎えることができました。いい経験になりました。
(取材・文/井上健一)