ついに放送が始まった2018年の大河ドラマ「西郷(せご)どん」。薩摩に生まれ育ち、大久保利通(瑛太)ら仲間と共に明治維新を成し遂げた幕末の英雄・西郷隆盛(吉之助/鈴木亮平)の波乱の生涯が1年にわたって描かれる。その少年時代から幕を開けた第1回の、スピード感あふれる展開や風景の美しさに引き込まれた視聴者も多いのではないだろうか。ここでは、主人公・西郷吉之助の父・吉兵衛を人間味たっぷりに演じる風間杜夫に、撮影の舞台裏や、話題となっている“『蒲田行進曲』トリオ”再共演の感想などを聞いた。
-西郷吉兵衛はどんな人物でしょうか。
家族を愛する情の深さはありますが、家では妻の満佐(松坂慶子)さんの尻に敷かれていて、やや頼りない大黒柱です。とはいえ、侍としてのプライドはあるし、おやじとしての威厳も保ちたくて、いろいろ見栄を張ったりもする。おやじの自覚を持っている割には、家族からあまり当てにされていないけれど、愛嬌(あいきょう)のある魅力的な人。そんなふうに演じているつもりです。
-吉之助を演じる鈴木亮平さんの印象は?
共演するのは初めてですが、西郷隆盛という人物をどういうふうに造形するかということを、自分なりによく考えていますね。回を追うごとに、成長していく過程を見せてくれています。僕らが一番苦労しているのは方言なのですが、それもすらすら出てくるぐらいトレーニングも丹念にして。体も相当作り上げていますが、あそこまでできる人は、日本の俳優にはなかなかいないでしょうね。
-主役の意気込みが伝わってくるようですね。
ただ、彼は体当たりで芝居をやりますから。体が大きくて力も強いので、追い掛けて止めなければいけないときも止まりません(笑)。そもそも追い付けないし、振り払われると、本当に飛んでいってしまいますから。僕の体が壊れてしまうので、「芝居なんだから、ほどほどに」とお願いしながらやっています(笑)。
-今回、風間さんを含めた松坂慶子さん、平田満(大久保次右衛門役)さんとの“『蒲田行進曲』トリオ”の再共演が大きな話題ですね。
松坂さんも平田くんも、それぞれ別々に共演はしているのですが、3人が同じ画面にいることで、35年前にあの映画を見た人たちが特別な感情を持たれるのかと思うと、うれしいです。若い俳優と共演したときも「風間さん、あの映画面白いです」と、今でも話題にしてくれますし。3人そろったとき、松坂さんが「お2人と共演できるのが本当に楽しみ。うれしい」と、はしゃぐように喜んでいたので、僕も「本当ですよね、松坂さん。『平田、こんなことができるのも、長いこと役者をやってきたからだよな。良かったよな』と言ったんです。そうしたら、平田くんが「ええ。でも、もうこの先はないですよ」って(笑)。
-仲が良いからこそ出てくる言葉ですね。
松坂さんはすっかりいいお母さんになられて、平田くんも僕もいい年になりましたけど、3人ともほとんど変わりません。
-この作品では薩摩弁がかなり使われています。風間さんは「八重の桜」(13)では会津弁、「マッサン」(14~15)では北海道弁と、方言を使う役を数多く演じられていますが、今回の薩摩弁はどんな印象でしょうか。
難しいですね。僕はもともと東京の人間ですが、方言が好きで、若い頃からいろいろな方言を使う芝居をたくさんやってきたので、もっと簡単に言えると思っていたんです。だけど、すごく難しい。他の皆さんも苦労されていますが、一番苦労したのは方言です。薩摩弁をなめていました。
-どんなところが難しいのでしょうか。
東北弁などと違って、薩摩弁ははっきりしゃべります。その上、この作品では大声を張り上げてハキハキぶつけていくような芝居が多いので、メリハリを付けなければいけません。だけど、薩摩弁ばかりに気を取られていると、芝居のテンションが落ちてしまうんです。薩摩弁をきちんと言いたいのはもちろんですが、あまり気を取られると芝居の呼吸が合わなくなってしまう。その辺のバランスを取るのが大変です。
-今回、方言指導を担当するのは鹿児島出身の俳優・迫田孝也さんですが、やりやすさはありますか。
それはあります。ただ、その分厳しい。「僕ができるのに、なぜできないんですか」といわれるのですが、「あなたは鹿児島出身でしょう?」と(笑)。第1回には、女の子の格好をして歩いている小吉(渡邉蒼・のちの隆盛)を見つけた吉兵衛が、土手を駆け降りて「なして、そんな女子の格好をして、恥ずかしか!」と言う場面がありました。この時、実はげたで駆け降りるだけで足がつりそうになってしまって(笑)。方言になかなか集中できず、迷惑を掛けました。ただやっぱり、厳しく指導してくれるのはありがたいです。
-第1回で小吉を演じた子役の渡邉蒼くんは、西郷隆盛の子ども時代といった雰囲気がよく出ていました。共演した印象はいかがでしょうか。
僕も子役の経験があるんです。だから「俺の時代はこんなもんじゃなかった」みたいなことを言いたくなってしまうので(笑)、撮影のとき以外はなるべく近寄らないようにしました。ただ、ディレクターの野田(雄介)さんがものすごく厳しく指導していました。妥協しないで何度も芝居をやらせていましたが、負けずに食らい付いていました。風貌はいかにも西郷隆盛の子ども時代といった雰囲気でとてもいい子ですが、ああいうふうに鍛えられたら伸びるのではないでしょうか。
-最後にこのドラマの見どころを。
第1回だけでもオープニングからスピード感がありますし、毎回こんなふうにワクワクできるのではないかと期待しています。西郷隆盛は、男からも女からも愛され、3回結婚したというスケールの大きな人ですが、そんな人物が幼なじみの大久保利通たちと共にどんな生きざまを見せてくれるのか、楽しみにしています。
(取材・文/井上健一)