X


「正信はものの考え方が柔軟で、半分亡霊みたいな人」六角精児(本多正信)【「おんな城主 直虎」インタビュー】

 草履番としての働きを家康(阿部サダヲ)に認められた万千代(菅田将暉)の下に、後釜として“ノブ”と名乗る中年男がやってきた。自分が小姓になるためには、一人前の草履番に育ってもらわなければと、動きの鈍いノブにいら立つ万千代。だがこの男こそ、かつて一向一揆に加担して主君・家康に背いた本多正信だった…。多彩な徳川家臣団の中でも特に異彩を放つ男を演じる六角精児が、役に込めた思いを語った。

本多正信役の六角精児

-「武蔵 MUSASHI」(03)に続いて二度目の大河ドラマ出演となりますが、感想はいかがでしょう。

 二度目と言っても、前回は町侍みたいな役で一瞬出ただけなので、あまり覚えていないんです。だから、これが初めての大河ドラマだと思っています。今回改めて感じたのは、スタッフの動きが迅速で物語もしっかり作ってあるので、役者にとってはありがたいということですね。とはいえ、他の作品も大河ドラマも仕事という意味では違いはないので、同じように精一杯取り組ませていただくという気持ちでやっています。

-本多正信という人物を、どのように捉えていますか。

 一般的な武将のイメージとは少しかけ離れているような気がします。戦国武将には、“剛”とか“武”とか強いイメージがありますが、それとは違って、力を使わずに“柔”を持って物事を解決する。そんな人間だったのではないでしょうか。

-正信は草履番として万千代、万福の下で働くことになりました。3人の掛け合いがユニークですが、菅田将暉さん、井之脇海さんと共演した感想は?

 楽しかったです。親子ほども年が離れているんですけど、まったく垣根が無くて同級生みたいでした(笑)。2人とも若いけど、たくさん経験も積んでいるし、何よりも集中力がすごい。僕の方が引っ張られながらやっていたような感じです。正信のだらしなさに万千代がイライラする様子も、僕自身が駄目だと思われているような気がして、一種のマゾ的な心地よさがありました(笑)。

-草履番はスポットが当たることの少ない役割ですが、演じてみた感想は?

 大変な仕事ですよね。今でも、歴史のある劇場の楽屋口には下足番の方がいたりします。そこでのやり取りを思い返すと、草履番ならではの意地と哲学が見えてくる。単純な作業のように見えるけど、人の名前とその草履の場所を覚えておかなければいけない。万千代は自分がやるからにはより効率良く草履を出そうと考え、棚を作るなどの工夫をする。そして、そういうアイデアを持っているから出世していく。

-働くこと全てに通じる話ですね。

 何事にも一生懸命にエネルギーを注げということですよね。注がなくても何とかなるかもしれないけど、注げば新しい何かが生まれる。何事も考え方によって変わるんだなということを感じました。

-初登場の場面(第39回)は、徳川家康役の阿部サダヲさんとの共演でした。阿部さんの印象は?

 役の捉え方がとても正確で、この物語における徳川家康がどういうものかということを、きちんとご自分の中で把握して演じている。それがよく伝わってきました。

-正信は一度、三河の一向一揆で家康を裏切った後、許されて戻ってきたという経歴の持ち主ですが、家康に対してはどのような思いを持っているのでしょうか。

 許す心というものは、人間の大きさを象徴しているような気がします。逆に、許された人間は、その人のために一生懸命働くようになるのではないでしょうか。だから正信も、家康を自分の命以上の存在として仕えていこうという気持ちになった。許されるありがたさは何となく分かります。僕も今までいろいろなことを許されて生きてきたところがあるので(笑)。

-正信は後に家康に重用されますね。

 歴史に名を残している武将は、武勇に優れていて存在感のある人が多いですが、正信はそういう人たちとは一線を画しています。とはいえ、存在感が薄いにもかかわらず、家康が重用したことを考えると、やはり正信の意見は的を得た確かなものが多かったのだと思います。それと同時に、家康は、たとえ自分を戒めるような意見でも耳を傾けることのできる度量の大きな人間だったということではないでしょうか。家康だからこそ、正信を従えることができたのだと思います。

-一方、家康とは違い、本多忠勝(高嶋政宏)は裏切ったことを許していませんでした。

 正信は、当然だと思っているでしょう。より近い立場の人間の方が憎しみも深いですから。だからといって、それで萎縮するような人ではありませんが、忠勝の前では目立った動きは控えて、できるだけ波風を立てないようにしたのではないかと。正信は、そんなふうに忠勝との距離感を保っていたに違いありません。そういう意味では、人間関係のバランス感覚に優れた人だったのではないでしょうか。

-激昂した忠勝が、正信に向けて刀を抜く場面もありました。

 人間の死に対する価値観が今と昔では違うので一概には言えませんが、正信は「斬られるかもしれない」と考えていたはずです。家康から許されたと言っても、やはり裏切ったという事実は重大ですから。それぐらいの覚悟がなければ、戻ってこなかったでしょう。

-今後、正信は仕事中にフラフラとどこかへ行ってしまうなど、さらにユニークな行動を見せるようですね。

 本当にそんな人だったのかどうかは分かりませんが(笑)。ただやはり、ものの考え方が自由で柔軟ですよね。残っている逸話も変わったものが多く、例えば手柄を立てても、恩賞に石高を求めなかったそうです。それは、多過ぎる石高を得ると、ねたまれてつぶされるからだとか。加減を知っていた正信には、「出過ぎず、消えず」という表現がふさわしいのかもしれません。

-なるほど。

 本能寺の変の後、家康は危機を逃れるために「伊賀越え」をします。そこに正信も同行したらしいのですが、きちんと名前は残っていないそうです。結局、そういう人なんですね。いるのかいないのか分からず、半分、亡霊みたいですが、面白い人だなと思って。そんな一風変わった武将をやらせていただけるのは大変光栄です。

(取材・文/井上健一)

特集・インタビューFEATURE & INTERVIEW

「明日香と遥斗の恋が二転三転するのが面白いところです」 ドラマ「366日」狩野雄太プロデューサーが語る“今後の見どころ”【インタビュー】

ドラマ2024年5月14日

 広瀬アリスが主演する月9ドラマ「366日」(フジテレビ系)が現在放送中だ。本作は、HYの名曲『366日』の世界観に着想を得たオリジナルストーリー。高校時代に実らなかった恋をかなえようと再び動きだした雪平明日香(広瀬)と水野遥斗(眞栄田郷敦 … 続きを読む

若葉竜也 主演の杉咲花は「常に新鮮で驚かされます」 4度目の共演となる医療ドラマに手応え十分「アンメット ある脳外科医の日記」【インタビュー】

ドラマ2024年5月13日

 カンテレ・フジテレビ系で毎週月曜夜10時から好評放送中の「アンメット ある脳外科医の日記」。元・脳外科医の子鹿ゆずる氏が原作(漫画:大槻閑人氏)を務め、『モーニング』で連載中の同名漫画を原作に、不慮の事故で記憶障害を抱えた脳外科医・川内ミ … 続きを読む

「素晴らしい技術も、全ては皆さんを映画の世界に連れていくためのサポートに過ぎないと思っています」『猿の惑星/キングダム』ウェス・ボール監督【インタビュー】

映画2024年5月13日

 現在から300年後、人類と猿の立場が完全に逆転し、猿が独裁支配をもくろむ衝撃的な世界を大胆に描いた「猿の惑星」新サーガの第1章『猿の惑星/キングダム』が公開された。来日したウェス・ボール監督に話を聞いた。 -最初の『猿の惑星』(68)から … 続きを読む

「光る君へ」第十八回「岐路」女にすがる男たちの姿と、その中で際立つまひろと道長の絆【大河ドラマコラム】

ドラマ2024年5月11日

 NHKで好評放送中の大河ドラマ「光る君へ」。5月5日に放送された第十八回「岐路」では、藤原道長(柄本佑)の兄・道兼(玉置玲央)の死と、それによって空席となった関白の座を巡る道長と藤原伊周(三浦翔平)の争いが描かれた。  妻・定子(高畑充希 … 続きを読む

【週末映画コラム】映画館の大画面で見るべき映画『猿の惑星/キングダム』/“お気楽なラブコメ”が久しぶりに復活『恋するプリテンダー』

映画2024年5月10日

『猿の惑星/キングダム』(5月10日公開)    今から300年後の地球。荒廃した世界で高い知能と言語を得た猿たちが、文明も言語も失い野生化した人類を支配していた。そんな中、若きノア(オーウェン・ティーグ)は、巨大な帝国を築く独裁 … 続きを読む