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【インタビュー『カノン』】比嘉愛未「未来に向かって歩み出せるパワーになれば」 ミムラ「三人で気を使わずに楽でした」 佐々木希「ピアノの練習を頑張りました」

 『チェスト!』、『リトル・マエストラ』などを手掛けてきた雑賀俊朗監督の『カノン』が10月1日から公開される。本作は、亡くなったと思っていた母が生きていることを知った三姉妹が、秘められた母の過去をたどる中で、自らの傷と向き合い、未来へ踏み出す姿を描いた物語。主人公の三姉妹を演じた比嘉愛未、ミムラ、佐々木希が、撮影の舞台裏と作品に込めた思いを語った。

 

(左から)佐々木希、比嘉愛未、ミムラ(C)2016「カノン」製作委員会

-皆さん初共演ということですが、それぞれの個性がよく出ていて、本当の姉妹のような雰囲気が伝わってきました。その点について、三人で話し合ったりはしたのでしょうか。

ミムラ みんな三人きょうだいなんですよ。だから「きょうだいっていっても、別に似ているわけじゃないよね」ということで考えが一致して、一緒にいても楽でした。

比嘉 本当に素でいる感覚でした。だから、何かしたということはなくて、自然に「大丈夫だ」と思えたんです。演じるにも限界があるし、空気感ってなかなか出せないと思うので、三人で共演できたのは不思議な縁だなと。カメラが回っていない時にいろんな話をする時間もたっぷりありました。そんなところから、姉妹らしさが出たのかもしれません。

-互いに演技の相談をしたりすることはあったのですか。

比嘉 自分の役はどうしても自分の目線でしか捉えられないので、がんじがらめになっちゃうんです。でも、ちょっと相談することで、「こういう捉え方もありなんだな」って広がったので、みんなに助けられました。

ミムラ それぞれが幼少期のトラウマやモラハラ、アルコール依存症という問題を抱えた役を演じていたので、一人で考えているよりも、話している時の一言が「あ、そうかも」ってヒントになることはあったよね。

佐々木 聞いてもらえるだけで、すごく心強くてうれしかったです。

-鈴木保奈美さんがアルコール性認知症を患った三姉妹の母親を熱演していますが、撮影時の印象はいかがでしたか。

比嘉 保奈美さんが、一番苦しくて大変だったと思います。いつもキラキラしたイメージの保奈美さんがげっそり痩せられて、撮影の3週間はずっと役に入っていらっしゃったので、すごく緊張感がありました。多分、現場では誰とも話していないんじゃないでしょうか。「おはようございます」ってあいさつするだけで。

ミムラ 私は以前、保奈美さんと共演させていただき、その時はとても楽しくお話ししてくださいました。でも、今回は全く違う役作りだったので、ずっと緊張感がありましたね。

佐々木 話し掛けてもいいのかどうか悩んでいたんですけど、撮影初日に役作りされている雰囲気から気軽に話しかけてはいけないと思いました。でも、完成した映画の試写の時にお会いしたら、明るく話し掛けてくださって、撮影中の雰囲気とは全然違っていたのでホッとしました(笑)。

比嘉 保奈美さんがクランクアップの時、終わった瞬間に「終わった!」って、すごい笑顔を見せてくれたんですよ。それまでは全く見せなかったのに。それだけプレッシャーもあったんでしょうけど、覚悟が感じられて、女優の先輩としても尊敬しました。

-三人でピアノを演奏するクライマックスのシーンはいかがでしたか。

比嘉 あそこは、私たち吹き替えなしでピアノを練習して頑張りました。特に思い入れが強いシーンなので、ぜひ見ていただきたいです。

ミムラ 私だけピアノ経験者で、楽器の絡む撮影もしたことがあったので、100パーセントやっておいても撮影になると緊張で目減りすることが分かっていました。だから、150か200までやっておこうって(笑)。

比嘉 アドバイスを頂いてやりました。私とのんちゃん(佐々木)は人生初のピアノで、1カ月ちょっとぐらいかけて練習するところから始めたので。

佐々木 電子ピアノをお借りして自宅でも練習したり。やればやるほど上達するのを感じられたので、本当に1カ月間頑張りました。

比嘉 お互い別の仕事もやりつつ、クランクイン前に三人で集まって練習もしたので、絆も深まったと思います。

-それぞれが内面に傷を抱えた役を演じていますよね。そういう傷には、向き合った方がいいと思いますか。

比嘉 それはすごく考えました。モラハラやアルコール依存症みたいに名前がついているものばかりじゃなくて、小さな傷から大きな傷まで、生きていく上で何かしらの傷を抱えてない人はいないと思います。主人公の三姉妹も、分かってはいるけど逃げていたんです。でも、踏み出せたからこそ、明るい方へ進んで行ったんです。だから、やっぱりその時はつらいですけど、私は踏み出すべきだと思います。

佐々木 私も一緒です。この三姉妹は助け合うことで前に進むことができたのですが、一人っ子の方もたくさんいらっしゃいますよね。例え一人っ子だとしても、周りに支えてくれる人はたくさんいると思うので、勇気を振り絞って踏み出してほしいです。

ミムラ 私も基本的には二人と同じ考え。ただ、問題に取り組もうとしたときに、発生地点が自分だと逃げられないので、うっかり手を付けて崩壊する危険性もありますよね。そういった意味では、“時間薬”っていうのも結構効くと思うんですよ。あんなに気になっていたのに、5年たったらそうでもないとか。だから、時間薬と向き合うことの二つをうまく使い分けてほしいなって思います。

-最後に映画の見どころを。

比嘉 男性、女性、年齢を問わずいろいろな方に見ていただきたいです。きっとどれかの役に、自分とリンクする部分があると思うので。とてもディープで切ないシーンもあるんですけど、決して暗いだけではなくて、未来に向かって歩み出せるパワーになればいいなと思いながら作ったので、きっとそれが作品に出ていると思います。

佐々木 一つのテーマだけでも一本の映画になりそうなものがいくつもあって、とても重い内容ですけど、未来に向かっていくというところは大きな見どころになっていると思います。

ミムラ 撮影はほとんど富山県で行なったんですが、1時間前に晴れていてもあっという間に雨が降ったり天気の変わりやすい土地で。その中で複雑な感情を演じていると、「ちょっと難しいな」と感じていたものが、不思議なほどうまく運ばれることがあって、土地の力にすごく助けられました。地元の方々にもご協力いただき、行ったかいがあった映像もたくさんあるので、そこも一つの見どころです。

10月1日(土)から角川シネマ新宿ほか全国順次公開。

(取材/文 井上健一)

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