汚れ役ともいえる中島裕翔の“一人芝居”が見ものの『#マンホール』/全編に映画や映画館に対する愛があふれる『銀平町シネマブルース』【映画コラム】

2023年2月6日 / 07:00

『銀平町シネマブルース』(2月10日公開)

(C)2022「銀平町シネマブルース」製作委員会

 あるトラウマを抱え、青春時代を過ごした銀平町にやって来た一文無しの映画監督・近藤(小出恵介)は、映画好きの路上生活者・佐藤(宇野祥平)、商店街の一角にある映画館・銀平スカラ座の支配人の梶原(吹越満)と知り合ったことをきっかけに、銀平スカラ座でアルバイトとして働くことになる。

 近藤は、同僚のスタッフ(藤原さくら、日高七海)や、ベテランの映写技師(渡辺裕之)、売れない役者(中島歩)やミュージシャン、映画の世界に夢を見ている中学生など、個性豊かな常連客との出会いを通じて、自分と向き合い始める。

 監督・城定秀夫、脚本・いまおかしんじが、経営難の映画館を舞台に、そこに集う人々の人間模様を描いた群像悲喜劇。撮影は、埼玉県川越市にある老舗ミニシアター・川越スカラ座などで行われた。

 映画評論家・水野晴郎の決めぜりふ「いや~、映画って本当にいいもんですね」ではないが、この映画にも「映画っていいじゃないか、いいもんだろ」(佐藤)、「映画っていいですよね。いいもんですよね」(近藤)というせりふのやり取りがあるように、全編に映画や映画館に対する愛があふれている。それも声高に叫ぶのではなく、じわじわといった感じなので、余計心に響く。

 『カサブランカ』(42)のほか、映画内映画として、近藤監督のホラー『はらわた工場の夜』と新人女性監督の悲喜劇『監督残酷物語』の断片が上映される。この2本の“全編”が見たいと思わせるところが、この映画の真骨頂ではないか。

 また、ブランクがあった小出と、昨年亡くなった渡辺の姿が、現実と重なるところがあり、しかも2人とも好演を見せるので、感慨深いものがあった。

 今年の前半は、ドキュメンタリー『モリコーネ 映画が恋した音楽家』(1月13日公開)、インド映画『エンドロールのつづき』(1月20日公開)に続き、1920年代のハリウッドを舞台にした『バビロン』(2月10日公開)、80年代の映画館を舞台にした『エンパイア・オブ・ライト』(2月23日公開)、スティーブン・スピルバーグ監督の自伝的な『フェイブルマンズ』(3月3日公開)といった、映画や映画館への愛をうたった映画が目白押し。

 そこに、この映画と、70年代を舞台に、映画制作に情熱を燃やす高校生たちを描いた『Single8』(3月18日公開)も加わる。

(田中雄二)

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