【映画コラム】“デル・トロ・ワールド”全開の『ナイトメア・アリー』/ケネス・ブラナーが愛した場所、愛した人たちの物語『ベルファスト』

2022年3月24日 / 09:00

『ベルファスト』(3月25日公開)

(C)2021 Focus Features, LLC.

 ケネス・ブラナーが、自身の幼少期の体験を投影して描いた自伝的作品。出身地である北アイルランドのベルファストを舞台に、宗教間の対立に翻弄される町の様子や、家族や周囲の人々とのふれあいの中で成長していく主人公の少年の姿などを、モノクロ映像で描く。

 ベルファストで生まれ育った9歳の少年バディ(ジュード・ヒル)は、家族と友達に囲まれ、映画や音楽を楽しみ、充実した毎日を過ごしていた。だが、1969年8月15日、プロテスタントの武装集団がカトリック住民への攻撃を始め、穏やかだった日々は突如悪夢へと変わってしまう。

 住民の多くが顔なじみで、一つの家族のようだったベルファストは、この日を境に分断され、暴力と隣り合わせの日々を送るバディの家族も、故郷を離れるか否かの決断を迫られる。何だか、現在起こっているロシアのウクライナへの軍事侵攻と重なる部分もなくはない。

 監督のブラナーはもちろん、父親役のジェイミー・ドーナンと祖父役のキアラン・ハインズ、音楽のバン・モリソンもベルファストの出身。母親役のカトリーナ・バルフもアイルランドのダブリン出身だ。だから、同胞の心の痛みや傷を描くこの映画は、彼らにとって、決して昔話や他人事ではなく、“自分たちの物語”なのだろう。その彼らが皆素晴らしい演技を見せる。

 その一方、ブラナーの分身であるバディ少年に、祖母(ジュディ・デンチ)が、フランク・キャプラ監督の『失はれた地平線』(37)の思い出を語りながら、「おまえは本当に映画が好きなのね」と、彼の未来を予測させるようなシーンがあるが、この映画には、さまざまな映画やドラマのタイトルや場面が登場する。

 例えば、バディがテレビで見る「宇宙大作戦」(66~69)「サンダーバード」(65~66)、そして現実の大人たちの対立とも重なる『リバティ・バランスを射った男』(62)と『真昼の決闘』(52)、あるいは家族と一緒に映画館で見た『恐竜100万年』(66)と『チキ・チキ・バン・バン』(68)など。

 筆者はブラナーと同世代なので、こうした映画や、アポロ11号の月着陸の様子などが、思い出として重なるところがある。それがこの厳しい映画を甘酸っぱく感じさせる要因の一つになっているのかもしれない。

 ブラナーは「私の愛した場所、愛した人たちの物語だ」と述べているが、これは、例えば、イギリスの関係でいえば、ウェールズ地方の炭坑町を舞台にしたジョン・フォード監督の『わが谷は緑なりき』(41)や、ビートルズ時代のジョン・レノンが、故郷のリバプールでの思い出の場所や人々についてつづった「イン・マイ・ライフ」の歌詞とも通じるところがあると感じた。

(田中雄二)

 

 

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