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【映画コラム】名優の生涯を描いた『MIFUNE THE LAST SAMURAI』と、名脚本家の監督デビュー作『モリーズ・ゲーム』

 今回は、日本が世界に誇る名優の生涯を描いたドキュメンタリーと、実録ものを得意とする名脚本家の監督デビュー作を紹介しよう。

(C)“MIFUNE:THE LAST SAMURAI”Film Partners 写真(C)TOHO CO.,LTD.

 まずは、『ヒロシマナガサキ』(07)などで知られる日系3世のスティーブン・オカザキが監督した、名優・三船敏郎の生涯を描いたドキュメンタリー映画『MIFUNE THE LAST SAMURAI』から。

 本作は、チャンバラ映画の歴史や、先の戦争について説明する冒頭を経て、本題の三船の人生に入っていくというユニークな展開を見せ、三船が出演した映画の名場面と、関係者へのインタビューを中心に構成している。

 証言者は、息子の三船史郎、役所広司、共演女優の香川京子、司葉子、二木てるみ、八千草薫、スクリプターの野上照代、殺陣師の宇仁貫三、そしてマーティン・スコセッシ、スティーブン・スピルバーグほか。15年に製作された映画なので、最近亡くなった加藤武、中島春雄、夏木陽介、土屋嘉男の貴重な証言も聞ける。

 土屋が「三船さんは我慢の人」と語っているのが印象的。黒澤明監督が三船に送った弔辞を香川が朗読するラストシーンも心に残る。全体的に黒澤映画の三船に偏り過ぎている気もするが、改めて俳優・三船敏郎の素晴らしさを知らしめる、こうした映画が今作られたことが貴重なのだと思う。

 また、スコセッシとスピルバーグの証言は、アメリカの映画人が三船をどう捉えていたが垣間見えて興味深いものがあった。『羅生門』(50)の三船をライオンに、『蜘蛛巣城』(57)の三船をバスター・キートンに例えるスコセッシ。

 「彼のまねをする人は多いが、まねるのは無理だ。クロサワとの絆によってミフネは独自にキャラクターを造形し、アートを生み出した。映画は言葉の壁を越える。映画という共通言語を使えば、世界のみんなが一つの絆で結ばれる。ミフネはそれを証明した」と熱く語るスピルバーグ。そんな彼らの言葉を聞くと、何だかこちらまで誇らしい気分になってくる。

 ところで、三船は「『スター・ウォーズ』(77)のオビワン役ではなく、スピルバーグの『1941』(79)の潜水艦長役を選んだことを、ずっと後悔していた」と、どこかで読んだ記憶があるが、スピルバーグの証言を聞くと、本人は結構楽しんで演じていたようなので、ちょっと胸のつかえが降りた。

 そういえば『レディ・プレイヤー1』の中に、三船をモデルにしたキャラが登場したが、あれはスピルバーグ流の三船に対する感謝の気持ちだったのだろうか。同作で“トシロー”を演じた森崎ウインは「スピルバーグ監督から『三船敏郎さんみたいにやってみて』と言われたときは、準備をする時間がなかったので、YouTubeで断片的な映像を見て、やってみました。やっぱり三船さんと黒澤監督はすごいと思いました」と語った。

 続いては、『ソーシャル・ネットワーク』(10)、『マネーボール』(11)、『スティーブ・ジョブズ』(15)と、実在の人物の知られざる裏側を描いてきた名脚本家アーロン・ソーキンの監督デビュー作『モリーズ・ゲーム』。

(C)2017 MG’s Game, Inc. ALL RIGHTS RESERVED.

 今回のソーキンは、ジェシカ・チャステインを主役に迎え、スキー、モーグルのオリンピック候補から一転、26歳でセレブが集う高額ポーカールーム(レオナルド・ディカプリオも顧客の一人だった)の経営者となりながら、違法賭博の罪でFBIに逮捕された実在の女性モリー・ブルームの数奇な半生を描いている。

 チャスティンが『女神の見えざる手』(16)に続いて、悪女と見せかけておいて、実は…という主人公のモリーを見事に演じている。それは、ソーキン監督が「これは正しい決断をした人の物語なんだ。だがその結果彼女は、大金も名声も失う」と語るように、モリーがFBIによる司法取引で顧客名を要求されながら、断固として断ったこと事実を指す。モリーは“男前な女性”なのだ。

 そしてモリーはもとより、彼女の弁護士(イドリス・エルバ)、個性的な顧客たち、モリーと対立する父親(ケビン・コスナー)などの人間ドラマがしっかりと描かれているから、ポーカーのルールを知らなくても十分に楽しめる。さすがは実録映画の名手ソーキン。この映画も見事に面白い。
(田中雄二)