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ふんどし一丁に全身泥まみれ、四つんばいで獣の肉に食らいつく野獣のような姿…。
昨年の『シン・ゴジラ』、『ちはやふる』二部作など、数多くの作品で活躍する名優・國村隼の怪演が話題を呼んでいる。
その作品とは、のどかな田舎の村で発生した連続猟奇殺人事件をめぐって、一人の警察官が恐るべき事態に遭遇する韓国映画『哭声/コクソン』(16/全国公開中)だ。
ホラー風でもあり、サスペンス風でもあり、ミステリー風でもあるという独特の息詰まるムードの中、悪鬼のようなすさまじい表情から、淡々とした中に不穏な空気をまとった姿まで、幅広い演技を披露。物語の鍵を握る謎の“山の中の男”を演じて、外国人として初めて韓国の権威ある映画賞・青龍映画賞の男優助演賞、人気スター賞の二冠に輝いた。
もともと、キャリアの初期からハリウッド映画『ブラック・レイン』(89)に出演するなど、海外作品でも活躍してきた國村。本作には「韓国映画ってなんでこんなにパワフルで面白い映画が多いのか」(『シネマトゥデイ』の記事「韓国で快挙!国際俳優・國村隼、海外で活躍する秘訣とは?」より)との思いから挑んだように、世界的に注目を集める韓国映画に関心を持つ日本人俳優は少なくない。
「バイプレイヤーズ~もしも6人の名脇役がシェアハウスで暮らしたら~」(テレビ東京系毎週金曜深夜0時12分放送中)の大杉漣は、『隻眼の虎』(15)に出演。20世紀初めの朝鮮を舞台に、ベテラン猟師と“山の神”と恐れられる虎の死闘を描いた物語で、日本軍司令官を演じて存在感を発揮した。
この他、ゴリラがプロ野球選手になって活躍する奇抜なコメディー『ミスターGO!』(13)に、オダギリジョーが日本のプロ野球チームオーナー役で出演。目が覚めるたびに年齢も性別も変わってしまう主人公の恋を描いた異色のラブストーリー『ビューティー・インサイド』(15)には、上野樹里が主人公を演じる123人の俳優の1人として出演している。
一方、昨年の大ヒットドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」で注目を集めた大谷亮平は、『神弓 KAMIYUMI』(11)、『バトル・オーシャン 海上決戦』(14)など、韓国で活躍した後、日本で活動するようになった逆輸入パターンの俳優だ。
『哭声/コクソン』のナ・ホンジン監督は、國村が演じた“山の中の男”を日本人に設定した理由について、「“(韓国人と)非常に似通っているけれど、非常に違う”という異邦人が必要だった」(劇場用パンフレットのインタビューより)と語っている。
このように、外見が似ていることで起用される場合もあれば、『隻眼の虎』のように日本人が登場する歴史を描いた作品もある。韓国映画で日本人俳優が活躍するチャンスは、意外に多いのではないだろうか。
映画を愛する者の一人としては、刺激的な韓国映画に日本人俳優が出演し、さらにその経験がフィードバックされることで、日韓両国でより魅力的な作品が生まれることを期待したい。その行方を占う意味で、まずは『哭声/コクソン』における國村の怪演をスクリーンで確かめてみてはいかがだろうか。(井上健一)