【芸能コラム】俳優陣の好演と脚本の魅力を高める巧みな色の演出 「カルテット」

2017年3月11日 / 13:22
「カルテット」(C)TBS

「カルテット」(C)TBS

 冬の軽井沢を舞台にしながらも、積もった雪にまぶしい白さはなく、青空も“抜けるような”という表現が不似合いな少しくすんだ色合い…。

 「カルテット」(TBS系/毎週火曜午後10時放送中)を見て、映像の雰囲気が他のテレビドラマと少し違うと感じた人も多いだろう。

 偶然出会った男女4人の奏者が弦楽四重奏“カルテット”を結成し、冬の軽井沢で共同生活を送る中で繰り広げられる恋模様と、次第に明らかになっていくそれぞれの秘密。

 松たか子、満島ひかり、高橋一生、松田龍平ら実力派のキャストと「最高の離婚」(13)、「いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう」(16)の脚本家・坂元裕二が顔を合わせ、男女関係の機微や微妙な距離感をミステリアスなタッチで描き出す。

 ユニークなせりふの数々と俳優陣の好演、ひねりの効いた展開で話題を集めているドラマだが、その映像に着目すると、また違った面白さが見えてくる。

 このドラマでは、映像が全体的に茶系と緑系の色調で整えられているのが特徴だ。それがよく分かるのが、4人が共同生活を送る別荘の内装。柱は茶色、壁は薄い緑で統一されており、どんな場面にも必ず茶と緑の色が映り込む形になっている。中間的な色合いのこの二色をバランスよく配色することで、全体的に落ち着いた雰囲気が漂う。

 面白いのは、そのバランスを微妙に変化させることで、登場人物の心情を表現する演出が見られることだ。

 特に印象的だったのが第7話。気持ちのすれ違いが原因で1年前に失踪した夫・幹生(宮藤官九郎)と再会し、東京の自宅へ戻ってきた真紀(松たか子)が、夫婦でおでんの鍋を囲む。久々の会話で盛り上がる2人だったが、幹生の話を途中でさえぎり、真紀がキッチンへ立った瞬間から再び気持ちがすれ違っていく。

 この場面、会話が盛り上がっている間は、柔らかな茶系の色調で温かな雰囲気を演出。ところがキッチンに立った後、真紀にはややトーンを落とした緑系の照明を当てて見せる。温かな茶系の色におおわれた食卓の幹生と、冷たい緑色の光に照らされたキッチンの真紀。2人の温度差を伝える見事な色の演出に、思わずうなった。

 とはいえ、常に茶色が温かさ、緑が冷たさを表しているわけでもない。温かな緑もあれば、茶系のトーンを上げて、より情熱的な雰囲気を高めた場面もある。

 この他、登場人物が身に着ける衣装などで、赤も印象的に使われることが多い。茶と緑による中間的な色調の中に、赤を身に着けた人物が現れると、その存在が際立って見える。そこにどんな意図が込められているのか、考えてみるといろいろな想像が膨らむ。

 最終回まで残り2話。第8話のラストを見る限りでは、これからまだ大きな波乱が待っていそうだ。俳優陣の名演と巧みな脚本。それに加えて、色遣いにも注目してみると、より深くドラマが味わえるに違いない。(井上健一)


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