【映画コラム】“大林ワールド”を堪能する2時間51分『野のなななのか』

2014年5月17日 / 20:19

(C)2014芦別映画製作委員会/PSC

 新潟県長岡市を舞台にした『この空の花 長岡花火物語』(12)の姉妹編ともいえる大林宣彦監督の最新作『野のなななのか』が17日から都内の有楽町スバル座ほかで公開された。

 本作の舞台は北海道、芦別市。風変わりな古物商を営む元病院長の鈴木光男(品川徹)が92歳で死去。散り散りに暮らしていた鈴木家の面々が葬式のために古里の芦別に戻ってくる。彼らと謎の女性・清水信子(常盤貴子)との間で、光男の過去と北海道の戦争の歴史がひもとかれていく。

 大林作品の多くは、自身の古里・広島県尾道など特定の場所に執着し、過度にノスタルジックでファンタスティックな雰囲気の中、現在と過去を交錯させた物語が特撮を駆使した映像で表現される。その独特の世界は“大林ワールド”とも称される。

 また、大林監督は『異人たちとの夏』(88)『ふたり』(91)『あした』(95)『その日のまえに』(08)などで、生者と死者との間、死者との対話、記憶と忘却、生まれ変わりといったことにもこだわってきた。

 本作もパスカルズが森の中で演奏する摩訶不思議なオープニングに「人は常に誰かの代わりに生まれ、誰かの代わりに死んでゆく。だから、人の生き死には、常に誰か別の人の生き死にに、繋がっている。」というスーパーとナレーションを入れ、輪廻(りんね)転生や過去との関わりが本作の大きなテーマであることを示す。

 そして、黒澤明監督の『生きる』(52)や『夢』(90)にも通じるイメージ、中原中也の詩などをちりばめながら、多彩な登場人物が繰り出す冗舌なせりふと時空を超えた幻想的な映像で、反戦、原発、戦争体験の継承などを縦横無尽に語っていく。大林監督のえも言われぬパワー全開。まさに大林ワールドを堪能するための2時間51分だ。(田中雄二)


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