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『崖の上のポニョ』(08)以来5年ぶりとなる宮崎駿監督の最新アニメーション映画『風立ちぬ』が20日から公開された。
本作の舞台となるのは1920年代。ゼロ戦の設計者として知られる堀越二郎と作家・堀辰雄をモデルに創作した青年技師・二郎の半生を、薄幸の少女・菜穂子との出会いと別れを通して描く。「新世紀エヴァンゲリオン」の監督として知られる庵野秀明が二郎の声優を務めた。堀越はかつて『零戦燃ゆ』(84)という映画にも登場し、北大路欣也が演じている。
宮崎監督は、生家が航空機産業に関係していたため、幼いころから“空を飛ぶこと”に憧れていたという。本作の主人公・二郎の少年時代のモデルは監督本人なのかもしれない。
そうした自身の思いを反映するかのように、監督作の『風の谷のナウシカ』(84)、『天空の城ラピュタ』(86)、『となりのトトロ』(88)、『紅の豚』(92)では、さまざまな形で、独特のスピード感と浮遊感を表現した飛行シーンを登場させた。『魔女の宅急便』(89)のキキはほうきで空を飛ぶし、『千と千尋の神隠し』(01)では千尋が白竜に乗って空に飛び上がるシーンがある。本作は宮崎監督がこれまで以上に、空への憧れを突き詰めた作品だと言えるだろう。
また、本作の主題歌にはユーミンこと松任谷由実が、荒井由実の時代に発表したファーストアルバム『ひこうき雲』(73)のタイトル曲が使われた。
ユーミンと映画との関わりは、薬師丸ひろ子主演の『ねらわれた学園』(81)の主題歌「守ってあげたい」に始まる。『時をかける少女』(83)では原田知世に同名主題歌を提供し、同じく原田主演の青春映画『私をスキーに連れてって』(87)では「恋人がサンタクロース」がテーマソングとなった。
最近では『RAILWAYS 49歳で電車の運転士になった男の物語』(10)に「ダンスのように抱き寄せたい」を、『RAILWAYS 愛を伝えられない大人たちへ』(11)に「夜明けの雲」を主題歌として提供している。どれも映画と彼女の曲が一体となって印象に残る。
宮崎アニメとは『魔女の宅急便』の「ルージュの伝言」と「やさしさに包まれたなら」に続くコラボレーションとなったが「空に憧れて 空をかけていく あの子の命はひこうき雲」という詩はまさに本作の内容にぴたりとはまる。これは天の配剤と言うべきか。(田中雄二)