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「どうする家康」第24回「築山へ集え!」物語の期待感を高める武田勝頼の堂々たる生きざま【大河ドラマコラム】

 「すまんな。やはりわしは、女子のままごとのごときはかりごとには、乗れん。仲よく手を取り合って生き延びるぐらいなら、戦い続けて死にたい」

 NHKで放送中の大河ドラマ「どうする家康」。6月25日に放送された第24回「築山へ集え!」で武田勝頼(眞栄田郷敦)が発したせりふだ。

武田勝頼役の眞栄田郷敦 (C)NHK

 今回は、以前から主人公・徳川家康(松本潤)の妻・瀬名(有村架純)がひそかに進めていた計画の全貌が明らかになった。戦乱の終結を目指す瀬名は、徳川や武田、北条といった大名たちが和平を結び、大きな一つの国となることで平和な世を築こうとする。

 そのために、息子・信康(細田佳央太)と共に、家康の母・於大の方(松嶋菜々子)やその夫・久松長家(リリー・フランキー)、今川氏真(溝端淳平)とその妻で北条家出身の糸(志田未来)らの賛同を得て、計画を進める。

 この計画に乗った1人が、長篠および設楽原の戦いで織田・徳川連合軍によって大打撃を受けた武田家の未来を案じる重臣・穴山信君(田辺誠一)だった。「われらの生き残る道はこれしかない」と語る穴山の説得に一度は応じる勝頼。

 だが、織田を欺くため、しばらく徳川と“戦をするふり”をすると、頃合いを見計らって穴山に「うわさを振りまけ。徳川は織田をだまし、武田と裏で結んでおると」と命じる。その本心を語ったのが、冒頭に引用した言葉だ。そして、さらにこう続ける。

 「信長の耳に入れてやれ。信長と家康の仲が壊れれば、わしらはまだ戦える。あの2人に戦をさせよ。わしは織田、徳川もろとも滅ぼす!」

 この言葉に思わず、「これぞ戦国大名!」と膝を打った。確かに瀬名の計画は理想的だが、中には「この機に乗じて相手を出し抜こう」と考える人間もいるはず…と思っていたところだったからだ。

 優し過ぎる家康と強烈なカリスマ性を持つ織田信長(岡田准一)。両極端な2人がリードする物語の中で、天下を狙う野心を持つ勝頼は、ある意味、最も戦国大名らしいキャラクターに思える。家康や信長と血縁関係や深いかかわりがないという距離感も、情が絡んでこない分、孤高の存在感を際立たせ、真っすぐなライバルにふさわしい。

 長い間、「武田家を滅ぼした愚将」として評価の低かった勝頼だが、本作では眞栄田の力強い演技が従来のマイナスイメージを覆し、物語に対する期待感を高めていることも大きい。設楽原の戦いの際、兵たちを鼓舞した自信満々な演説に、「ひょっとしたら、勝つのでは?」という考えが一瞬頭をよぎったのは、筆者だけではないだろう。

 結果的に織田の鉄砲隊に大敗を喫した際も、想像を絶するほどの敗北感と悔しさをにじませながらも、一言も発することなく、大将としての威厳を保った姿は強く印象に残った。

 もちろん、歴史をひも解けば勝頼が悲劇的な運命をたどることは明らかだ。だが、その堂々たる生きざまは、最後の最後まで予断を許さない期待感に満ちあふれている。眞栄田=勝頼が今後どんな活躍を見せてくれるのか。まだまだ目が離せない。

(井上健一)

瀬名役の有村架純 (C)NHK