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「小四郎(=北条義時)、何年ぶりだ」「15年になりますね」「おまえ、悪い顔になったな」「それなりに、いろいろありましたから」
「だが、まだ救いはある。おまえの顔は、悩んでいる顔だ。己の生き方に、迷いがある。その迷いが救いなのさ。悪い顔だが、いい顔だ。ああ…いつか、おまえのために仏を彫ってやりたいな…。うん、いい仏ができそうだ」「ありがとうございます」
NHKで放送中の大河ドラマ「鎌倉殿の13人」。ここに引用したのは、8月28日に放送された第33回「修善寺」で、和田義盛(横田栄司)の館を訪れた主人公・北条義時(小栗旬)が、再会した仏師の運慶(相島一之)と酒を飲みながら交したやり取りだ。シビアな展開が続く物語の中で、大きな救いとなった場面だった。
源頼朝(大泉洋)の死後、争いが続く鎌倉で、義時は梶原景時(中村獅童)、比企能員(佐藤二朗)といった御家人たちを討伐してきた。そしてこの回では、ついに先代鎌倉殿・源頼家(金子大地)を討ち取る決断を下すことになった。
これまで討ち取ってきた梶原や比企は、謀反をたくらむか、あるいは野心を見せた者たちで、討ち取る側の義時にも理はあった。だが、頼家はそれらとは大きく異なる。
時に粗暴、横暴な振る舞いが見られたとはいえ、頼家自身は2代目鎌倉殿としての葛藤やプレッシャーを抱える中、「自分が鎌倉を背負っていかなければ」という思いで行動しており、討ち取られなければならないほどの悪行を重ねたわけではない。
何より、義時にとって頼家は、ほんの少し前まで何とか支えようとしてきた主君であり、おいでもあるのだ。
ところが、比企一族の野望と頼家の病という運命のいたずらが発端となり、義時はそんな頼家を暗殺するという苦渋の決断に追い込まれてしまった。北条が生き残るためにやむを得なかったとはいえ、見ていてもやもやし、すんなりと共感し難い部分もあった。
むしろ、義時に真正面から反論した息子の泰時(坂口健太郎)の「父上は間違っている。私は承服できません!」という言葉の方が胸に響いたぐらいだ。“主君の暗殺”という大きな一線を越えた義時は、行くところまで行ってしまった感もあるが、その結果、たどり着いた場所はどこなのか。