エンターテインメント・ウェブマガジン
「頼家さまの軽々しい一言が、忠義に厚いまことの坂東武者を、この世から消してしまわれたのです」「わしが悪いようにいうな。もともとは北条が…」「もちろん、そうでございます。しかし、よろしいですか。頼家さまのお気持ちが変わらぬ限り、同じことがまた繰り返されるのです。お分かりいただきたい」
NHKで放送中の大河ドラマ「鎌倉殿の13人」。上に引用したのは、8月21日に放送された第32回「災いの種」で、比企一族滅亡をめぐって、源頼家(金子大地)と北条家との板挟みになった仁田忠常(高岸宏行)が自害したことを、主人公・北条義時(小栗旬)が報告した際の頼家とのやり取りだ。
鎌倉殿としての頼家を温かく励まし、支えようとしていた頃とは一変した、義時の冷たい表情と突き放した口調は衝撃的だった。
今回の義時は、明らかに前回までとは違っていた。その分岐点はどこだったのか。振り返ってみると、前回終盤の比企一族を滅ぼした直後に行き当たった。
比企滅亡の報告を受けた姉・政子(小池栄子)が「これでよかったのですね」と尋ねたのに対し、義時は「よかったかどうかは、分かりません。しかし、これしか道はありませんでした」と答える。
これは、明らかに迷いのある言葉だ。このときの義時の表情にも、まだ迷いが感じられた。
ところがそのすぐ後、義時は館の中を歩きながら兄・宗時(片岡愛之助)の「俺はこの坂東を、俺たちだけのものにしたいんだ。坂東武者の世を作る。そして、そのてっぺんに北条が立つ」という言葉を思い出す。
ここで義時は、迷いを振り切ったかのように、決意の表情を見せる。これが、義時が覚悟を決めた瞬間だったに違いない。
実際に事を起こすまでは、まだ迷いがあったが、比企を滅ぼした以上、後戻りはできない。自分が全てを背負っていく。そんなところだろうか。ここを境に、義時の衣装の色もそれまでの明るい緑からより暗い緑に変わり、今回に至っている。
だからこそ、今回の冒頭、回復した頼家の扱いに困っていた北条一族の前で義時は「答えはとうに出ている。(中略)ここは、頼家さまが息を吹き返される前に戻す。それしか道はない」と断言できたのだろう。
同じく、今回、生き残っていた比企の血を引く頼家の長男・一幡をちゅうちょすることなく殺せた(最終的に手を下したのは、善児(梶原善)の弟子トウ(山本千尋)だが)のも、頼家を突き放して修善寺に送ることができたのも、その覚悟があればこそだ。
今後、義時は北条家を守るため、手段を選ばなくなっていくのかもしれない。
だが、その心中はいかばかりだろうか。覚悟の代償として、仁田忠常や妻・比奈(堀田真由)に悲しい運命をたどらせる結果となった。いずれも心優しく、義時にとって大切な人たちだった。