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それを考え続けていたところ、思わぬところにヒントがあった。それが、5月3日に放送された「プロフェッショナル 仕事の流儀 小栗旬スペシャル」だ。義時役に挑む小栗に長期間密着したドキュメンタリーで、番組中、密着しているディレクターに向かって小栗がこんな言葉を発したのだ。
「なぜここに俺がいるのか。分からんもん」
これを聞いてハッとした。まさに、自ら望んでいなかったものの、最終的に鎌倉幕府最高権力者の座に就く義時が口にしそうな言葉だと思ったからだ。期せずしてそれを、俳優なら誰もが憧れる大河ドラマ主演という大役を手にした小栗が、自身の言葉として語る。筆者の中で、2人が重なった瞬間だった。
さらに同番組では、小栗がスタッフ全員の名前を覚えようとしたり、共演者に気遣いを見せる様子も収められていたが、劇中でも義時は、会議の場で他の出席者に声をかける姿が何度となく描かれ、“気配りのできる人”という印象がある。
八重役の新垣も、当サイトのインタビューで「周りをよく見て、いろいろと気に掛けてくださる方です。その印象は以前も今も変わりません」と小栗の人柄について証言している。
つまり、義時には小栗自身の人柄がにじみ出ており、われわれはそれを見ていると考えられる。それこそが、義時がわれわれを魅了する主人公として真ん中に立っている理由ではないだろうか。脚本の三谷幸喜は“当て書き”をすることでも知られることから、この考えはあながち間違っていないように思う。
となると、“普通の人”から徐々に権力者への階段を上っていく義時の変化を、小栗がこれからどう表現し、どんな義時が出来上がっていくのか。想像するといろいろな妄想も膨らむが、毎回予想を覆す物語同様、その行方を期待とともに見守っていきたい。
(井上健一)