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一方、正妻の里もまた、義経の最期を際立たせる重要な役割を果たした。里の場合、先週の第19回がこの回につながる伏線となっている。
頼朝の命を受けた元興福寺の僧兵・土佐坊昌俊(村上和成)が、義経を襲撃したという史実を、本作では義経と静の仲を嫉妬した里が、静の命を狙って手引きしたものと解釈。それを義経が頼朝の陰謀と誤解したことで、兄弟の決裂が決定的になる、というのが第19回だった。
これを受けて、第20回では、泰衡に追い詰められた義経の前で里が事の真相を告白。それを聞いた義経は、湧き上がる怒りに任せて衝動的に里を刺殺してしまう。
その直後、里の亡がらにすがりつき、「すまぬ」と涙を流す姿からは一味違う義経の人間味も伝わり、その悲劇性をより高めた。こうして里も、義経の最期を巡るドラマの中で強い存在感を発揮することとなった。
史実を基にした時代劇では、歴史の表舞台に出てくることが少ない女性を物語上で生かすことはなかなか難しい。だが本作では、これまでも何度か触れてきた通り、三谷の鮮やかな脚本により、女性たちの活躍が生き生きと描かれている。
改めてその見事な筆致に舌を巻いたのが、この第20回だった。毎回、視聴者をあっと言わせる驚きの展開が話題の「鎌倉殿の13人」だが、それが好評を得ているのは、こうした脚本上の緻密な計算があればこそといえる。
(井上健一)