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「遅参する者なぞ戦場では役に立たん。おまえの連れてきた軍勢を見た。敵に回ればこれほど恐ろしいことはない。しかし、だからどうした。礼儀を知らぬ者とは、天下草創の志を同じうできん。焦らして、己の値打ちをつり上げようとしたか。笑わせるな。さっさと帰れ! 一戦を所望なら受けて立とう」
2月20日に放送されたNHKの大河ドラマ「鎌倉殿の13人」第7回「敵か、あるいは」で、味方についた豪族・上総広常(佐藤浩市)との初対面で源頼朝(大泉洋)が放った言葉だ。
石橋山で平家方の大庭景親(國村隼)の軍勢に敗れた後、海を渡って安房に逃れた頼朝は、そこで再起を図る。その際、味方になってくれるように手紙を送った相手が、一帯を支配する上総広常だった。
大庭方からも声が掛かる中、使者として派遣された主人公・北条義時(小栗旬)の尽力もあり、広常は頼朝に就くことを決意。だが、2万の軍勢を率いて参陣する際にわざと遅刻する。その下心を見抜いた頼朝が怒りを込めて発したのが、冒頭の言葉だった。
今まで、味方になってくれた武将は肩を抱いて歓迎していた頼朝だが、このとき見せた厳しい態度は、これまでにないものだった。
ここで素直に謝罪した広常は、頼朝から陣に加わることを許される。後に彼は義時に、頼朝の器を試し、棟梁にふさわしくなければその場で討ち取り、首を平家に差し出すつもりだったと打ち明ける。
これまで頼朝を巡る人間関係は、義時ら、北条家を始めとする従順な家臣か、敵対する大庭たち平家方とにはっきりと分かれていた。広常のように、頼朝に対して品定めをするような、どっちつかずの態度を取る者はいなかった。
中には、状況が不利になった途端に、「頼朝の首持って行きゃあ、なんとかなるんじゃねえのかな」と大庭に降伏しようとする北条時政(坂東彌十郎)のような者もいたが、広常の態度には、頼朝と姻戚関係にある(しかも、人間的にも割といい加減な)時政とは全く異なる真剣さが感じられた。
演じる佐藤の重厚な芝居も、底知れない奥深さがあり、番組公式サイトにある「坂東武士団で最も頼りになり最も危険な男」という広常の人物像が、この回で強く印象付けられた。
参陣する際、自ら率いる2万の軍勢を眺めながら、義時に「頼朝は、太刀を突き付けられたのさ、喉元にな」と自慢げに語る一幕もあったが、まさにこの「太刀」とは本作における広常自身のことを語っているようにも思える。
今までにないその立ち位置は、さまざまな人物が絡み合う物語に、これから新しい風を吹き込んでくれるに違いない。冒頭に記した頼朝の厳しい一面を引き出したことは、その好例だといえる。