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「このままでは、石橋山で佐殿をお守りして死んでいった者たちが浮かばれませぬ!」
2月13日に放送されたNHKの大河ドラマ「鎌倉殿の13人」第6回「悪い知らせ」のクライマックスで、主人公・北条義時(小栗旬)が、石橋山の敗戦で挫折した源頼朝(大泉洋)に再起を促す際に発した一言だ。
この後、義時は頼朝のそばに歩み寄り、「ことは既に、佐殿の思いを越えています。平家の横暴に耐えてきた者たちの不満が今、一つの塊となろうとしている。佐殿がおられなくても、われらは戦を続けます。そして必ず、平家の一味を坂東から追い出す。私は諦めてはおりませぬ!」と熱っぽく語る。
これに対し、「戯言(ざれごと)を。おまえたちだけで何ができる」と反論した頼朝は、さらに「この戦を率いるのは、このわしじゃ。武田でも、他の誰でもない」と言葉を続け、再起の決意を固める。
小栗と大泉の息の合った芝居も心地よく、頼朝の変化を鮮やかに描き切ったこの場面、「佐殿をお守りして死んでいった者たち」と戦死者たちに思いをはせて頼朝を説得する姿に義時の「誠実さ」が感じられ、強く印象に残った。
なお、台本を基に構成された各種ガイドブックのあらすじを読むと、義時のせりふに「兄(戦死した宗時)の無念を分かっていただきたい」という一言が台本にあった様子がうかがえる。
だが、完成作品では削られた。身内だけでなく、幅広い戦死者に思いをはせることで義時の「誠実さ」が伝わるという意味では、これで正解だろう。
本作をここまで見てきて強く感じるのは、「自分のことしか考えていない人間が多い」ということだ。自分たちが助かるのであれば、娘婿の頼朝でさえもあっさり見限ろうとする北条時政(坂東彌十郎)。
たどり着いた浜辺に待っているはずの船がなく、「真鶴まで行けば、船を出すことができます」と代案を出した土肥実平(阿南健治)に、その心を思いやることなく、「ならどうして最初からそこへ連れて行かぬのだ!」と怒りをぶつける頼朝。
第5回では、義時の親友・三浦義村(山本耕史)でさえも、激しい雨で川が越えられないと分かった途端、援軍を送ることを諦め、「小四郎、すまん」の一言で引き返していった。
そんな自分勝手な連中に囲まれながらも、頼朝を見限ろうとする時政をたしなめ、「もう歩けぬ」とごねる頼朝を「皆、安房で待っております」と励ますなど、義時の「誠実さ」は際立っている。
逆に言えば、家柄も並み以下で、武芸に秀でているわけでもない義時にとっては、「誠実さ」こそが最大の武器といえるのかもしれない。