【大河ドラマコラム】「青天を衝け」第二十四回「パリの御一新」学びを得て窮地を脱した栄一の姿が伝えるメッセージ

2021年8月18日 / 12:49

 「一人がうれしいのではなく、皆が幸せになる。一人一人の力で、世を変えることができる。おかしれえ…。これだ。俺が探し求めてきたのは、これだ!」

 これは、8月15日に放送されたNHKの大河ドラマ「青天を衝け」のクライマックスで、パリ滞在中の主人公・渋沢栄一(篤太夫/吉沢亮)が語った言葉だ。

渋沢栄一(篤太夫)役の吉沢亮

 日本総領事フリュリ・エラールに案内された証券取引所で、投資家から集めた資金を元手に事業を行い、それによって得た利益で投資家に配当金を分配する「株式資本(キャピタルソシアル)」の仕組みを知った栄一は、感極まってこう口にする。やがて実業家として活躍する栄一にとって、重要な転機となった出来事だった。

 では、なぜ栄一は証券取引所を訪れ、株式資本を学ぶことになったのか。その経緯を振り返ってみると、あるメッセージを読み取ることができる。

 遠く離れた祖国・日本で大政奉還が行われ、幕府が政治の実権を失ったことを知った栄一は、送金が途絶えたパリ滞在費を何とかやりくりする必要に迫られる。そこでエラールに誘われ、証券取引所で株を購入。その株で得た利益を元に、滞在費用をまかなうことができた…というわけだ。

 つまり、滞在費用が不足しなければ、株を購入する必要はなく、もしかしたら栄一が株式資本を学ぶことはなかったかもしれない。そう考えると、この窮地が栄一に新たな学びの機会を与え、引いては(やや大げさかもしれないが)日本の将来を左右した、とも言える。

 さらに、そのインパクトの大きさを際立たせたのが、激変する祖国・日本の状況を手紙(文字)でしか知ることができなかった栄一たちの不安や焦り、いら立ちだ。

 この回、日本国内では鳥羽・伏見の戦いを発端とする旧幕府軍と新政府軍の戦い“戊辰戦争”が幕を開けた。戊辰戦争は幕末もの定番の見どころであり、近年の大河ドラマ「八重の桜」(13)や「西郷どん」(18)などでも力の入った描写がなされてきた。ところが、この回ではその詳しい様子は描かれず、栄一たちに届く手紙で大ざっぱな状況が語られるのみ。

 だがそのおかげで、日本の状況を詳しく知ることができない栄一たちのもどかしさを、見ているこちらもよりリアルに感じることができた。

 また、これは偶然だが、大政奉還が行われた前回から、東京オリンピックのために3週の放送休止を挟んだことも、当時の日本からパリまでの情報伝達の時間差を少なからず実感させる効果を生んだように思う。まさに、リアルタイム視聴ならではの楽しみ方だった。

 
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