エンターテインメント・ウェブマガジン
8月22日に放送されたNHKの大河ドラマ「青天を衝け」第二十五回「篤太夫、帰国する」では、主人公・渋沢栄一(篤太夫/吉沢亮)がパリから帰国。時代は明治へと移り、再会した川村恵十郎(波岡一喜)らから話を聞く形で、前回、手紙で知らされただけだった戊辰戦争の詳細が明かされた。
その中で最も力が入っていたのが、尾高家から栄一の養子となった渋沢平九郎の最期だ。渋沢喜作(成一郎/高良健吾)率いる彰義隊(後に振武軍)に加わりながらも、新政府軍との戦いに敗れ、落ち延びる途中で脱落。たった1人、敵に囲まれて命を落とす壮絶な最期は、岡田健史の熱演もあり、胸が詰まった。
今回は、他にも、戊辰戦争の幕開けとなる鳥羽・伏見の戦い後の徳川慶喜(草なぎ剛)の江戸への帰還から彰義隊結成、函館戦争まで、1年近い出来事を一気に駆け抜ける猛スピードの展開。その密度は圧倒的で、平九郎の最期だけでなく、各地を転戦する喜作の死闘や土方歳三(町田啓太)との友情(熱い!)、謹慎する慶喜の今までにない弱々しい姿と、見どころ満載だった。
しかも、久しぶりに天璋院(上白石萌音)や静寛院宮(和宮/深川麻衣)、やす(木村佳乃)が登場するなど、これまでの主要人物の大半が顔を見せる華やかさ。さらに、小栗忠順(武田真治)や川路聖謨(平田満)の最期も、短い場面ながらきちんと印象に残る形で描かれていた。
オープニングクレジットを数えてみたところ、役名が表示された人物だけでも、回想を含めて46人。普通はここまで圧縮すれば、川路や小栗の最期はいわゆる“ナレ死”で終わってもおかしくない。だが、そこをきちんと描くあたり、人間と作品を大切にする作り手の志が感じられ、好感を持った。
そのスタンスに、「みんながうれしいのが一番」という栄一の願いに通じるものがあると感じたのは、筆者だけだろうか。
とはいえ、これほど多数の人物が登場したことが、単なる顔見せだったとは思わない。それにより、明治維新が徳川家や旧幕臣たちに与えたインパクトの大きさが、ひしひしと伝わってきたからだ。
その反面、栄一の帰国を手紙で知って素直に喜ぶ血洗島の家族の姿からは、地方の庶民には時代の大きな変化が今一つ実感できていない様子が垣間見え、当時の空気感を立体的に捉えることができたように思う。