【芸能コラム】会話の妙がポイント! 役者と脚本家の技が光るリモートドラマ

2020年6月6日 / 07:00

 世界的脅威となっている新型コロナウイルスによって世相は様変わりし、日本も感染拡大防止のための「新しい生活様式」がスタンダードになっている。それによって大打撃を受けたエンタメ界にも新風が吹き、リモート(遠隔)撮影したドラマが次々に誕生している。制限が多い中で作られるリモートドラマは、役者はもちろん、脚本家の技が光る会話劇となる。

「家政夫のミタゾノ」(C)Mitchell

 本来、ドラマ制作は企画から放送まで数カ月間を要し、スタッフだけでも何十人もが関わるもの。短期間で少人数、さらにスタッフやキャストが別々の場所にいながらリモートでドラマを作るなんて、考えたら無謀な話だ。

 しかし、出演者同士が顔を合わせないリモート撮影によって、松岡昌宏主演の「家政夫のミタゾノ 特別編~今だから、新作つくらせて頂きました~」(テレビ朝日系)が制作された。

 ミタゾノ(松岡)が、会社の部下・吉野美玖(筧美和子)の部屋でステイホームしている柴田明彦(音尾琢真)の不倫と、時を同じくして起こった明彦の妻・真理子(奥菜恵)の失踪の謎を暴くストーリーで、家政婦(夫)たちが自宅から行うミーティング、明彦の仕事の打ち合わせ、ミタゾノと明彦のやり取りなど、すべてがリモートで撮影された。

 ミタゾノのホラーチックな登場の仕方や、秘密を抱える家庭を容赦なく追い詰める姿、登場人物それぞれの個性、生活に役立つ情報なども巧みな演出で描かれ、見事に再現されたドラマの世界観に、SNS上には「めちゃ面白いな」「すげえや、めっちゃミタゾノ節じゃん!!」「リモート収録でも一つの作品になってた。」「初のリモート収録であそこまでの高いクオリティーのテレビドラマが作れるんだね!」などと絶賛の声が上がった。

 一方、より本格的なリモートドラマも続々と登場している。会話劇は、ほとんどがワンシチュエーションで、派手なアクションがなく一見地味だが、名うての脚本家がつむぐ丁々発止のやりとりや、ウイットに富んだトークなど、会話だけで作品を楽しむことができる一流のエンターテインメントだ。そして、それはリモートドラマにうってつけ。長ぜりふに加え、アップの映像が多いため表情の芝居が重要になるが、実力派の役者がそろえば鬼に金棒だ。

 NHKは「今だから、新作ドラマ作ってみました」と題して、リモートで打ち合わせやリハーサル、撮影、編集を行ったドラマを放送した。その中の第3弾「転・コウ・生」(6月5日午後11時15分からBSプレミアムで再放送)は、大河ドラマ「おんな城主 直虎」で共演した柴咲コウ、ムロツヨシ、高橋一生が再集結。コロナ禍にある今を舞台に、ステイホーム中の3人と1匹の猫の魂が次々に入れ替わるドタバタ劇を描いたコメディーだ。

 脚本は、「JIN-仁-」、「世界の中心で、愛をさけぶ」、「義母と娘のブルース」、連続テレビ小説「ごちそうさん」などを代表作に持つ森下佳子。リアルとファンタジー、騒々しさと静けさを融合させ、ユーモアで彩った同作は、コロナ禍といううそのような現実に直面している今だからこそ見るにふさわしく、うっ屈とした気持ちを笑いで吹き飛ばしてくれるはず。ここぞとばかりに力を発揮する役者陣の“ひょう依”演技も秀逸で、特に柴咲の振り切った芝居は一番の見どころと言っていいだろう。

 同局では、本当の家族が奇跡の共演を果たす、オムニバスファンタジー「リモートドラマ Living」も放送中。第1話には広瀬アリスと広瀬すず、第2話には永山瑛太と永山絢斗、第3話には中尾明慶と仲里依紗、第4話には青木崇高と優香(声)が出演し、不思議な物語を繰り広げる(第3、4話は6月6日午後11時30分からNHK総合で放送/第1、2話は6月7日午後10時50分からBSプレミアムで再放送)。

 脚本は、「東京ラブストーリー」「Mother」「カルテット」「最高の離婚」「anone」など、トレンディードラマから社会派ドラマまで数々の傑作を手掛けた会話劇の雄・坂元裕二。

 ファンタジーのベールで包んではいるものの、人類はこの世界で生きる価値があるのか? という壮大なテーマをベースに、人種や戦争、愛、家族、ネットトラブルなど多角的な視点で問題提起している同作は、1話たった15分だが大変味わい深い。この独特の世界観を、人気俳優たちが家族故のあうんの呼吸で、時に軽妙に、時にシリアスにつむいでいくのだから、見ない理由はないだろう。

 また、WOWOWはYouTube公式チャンネルなどで、吉田羊と大泉洋がW主演する「2020年 五月の恋」全4話を無料配信している。4年前に離婚した元夫婦で、都心の大手スーパーマーケットで働くユキコ(吉田)と、慣れないリモートワークに奮闘する営業マンのモトオ(大泉)が、間違い電話をきっかけに再び交流を始める笑いと涙と愛の物語だ。

 脚本は、連続テレビ小説「ちゅらさん」、「ひよっこ」、ドラマ「ビーチボーイズ」、「最後から二番目の恋」などで知られる岡田惠和。

 人の心に寄り添う優しく穏やかな作風が持ち味の岡田らしい同作は、コロナ禍の今を誠実に一生懸命生きる2人の姿、夫婦漫才かのような調子のいい掛け合い、元夫婦だからこそ言い合える本音などが描かれ、「極上の大人の会話劇」と評価が高い。吉田と大泉の感情があふれ出る表情の演技もあっぱれとしか言いようがない。

 
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