【コラム 2016年注目の俳優たち】 第18回 大泉洋 我慢が似合う男が演じる真田家の嫡男 「真田丸」

2016年9月13日 / 13:46
真田信幸を演じる大泉洋

真田信幸を演じる大泉洋

 真田家の跡継ぎでありながら、天才肌の父・昌幸(草刈正雄)と弟・信繁(堺雅人)に挟まれ、ひたすら我慢の日々を過ごしてきた真田信幸。室賀正武(西村雅彦)からは「黙れ、小童!」と罵倒され、前妻・こう(長野里美)と正室・稲(吉田羊)との間で板挟みになるなど、これまであまりいいところがなかった。ところが第35回「犬伏」では一転、信幸が真田家の命運を左右する決断を下し、大きな見せ場となった。

 信幸役の大泉洋は、ひょうひょうとした明るさとユーモアあふれるキャラクターで人気だが、俳優としては意外にも、周囲に振り回されつつ我慢して状況に立ち向かう人物を多く演じている。

 今春公開された『アイアムアヒーロー』(16)で演じたのは、鳴かず飛ばずのまま35歳になった漫画家アシスタントの鈴木英雄。突如日本中を襲った謎の感染者“ZQN(ゾキュン)”の大量発生という危機に直面し、いや応なしにサバイバルを繰り広げることになる。

 江戸時代、夫との離縁を希望する女性たちが集まる駆け込み寺で繰り広げられる人間模様をつづった『駆込み女と駆出し男』(15)では、見習い医師兼駆け出しの戯作者(作家)、中村信次郎役。寺に駆け込んだ女性たちを助け、さまざまな人生を見聞きするうちに成長していく。この作品で大泉は、ブルーリボン賞主演男優賞を受賞している。

 『青天の霹靂』(14)では、タイムスリップをして若いころの父親とコンビを組む売れないマジシャン轟晴夫役。

 いずれも、キャラクターの違いはあれど、自らの意志ではなく、周囲の騒動に巻き込まれてやむなく事態に対処する役回りという点では共通している。

 これらの役を、シリアスな芝居を得意とする俳優が演じれば深刻な雰囲気になるが、大泉が演じると親しみやすさとユーモアが生まれる。この“深刻になり過ぎない”というところがポイントで、「真田丸」全体を包むムードにも通じている。中でも、しばしば見せる「弱っちゃったな~」という心情がひしひしと伝わる困り顔は、人間味にあふれていて味わい深い。

 こうして振り返ってみると、信幸は大泉の持ち味を生かしたハマり役と言えそうだ。大泉から信幸の人物像を尋ねられた脚本家・三谷幸喜の「父・昌幸に翻弄(ほんろう)されつつも必死に食らいついていく。(中略)真田家のためなら何でもできる男」という答え(『NHK大河ドラマ・ストーリー 真田丸 前編』インタビューより)からも、適役だった様子がうかがえる。

 再会を誓って父や弟と袂を分かった信幸は、第36回「勝負」で、徳川家康(内野聖陽)から真田攻めを命じられるつらい立場に置かれた。次週放送の第37回「信之」でも、すでに予告編で伝えられている通り、徳川を裏切った昌幸と信繁の運命が信幸の手に委ねられる。

 まだまだ苦悩は続きそうだが、それは裏返せば見せ場ということでもある。これまで名演を披露してきた登場人物たちが惜しまれつつ姿を消していく中、我慢を続けてきた信幸が、これからの物語を盛り上げてくれるに違いない。

 (ライター:井上健一):映画を中心に、雑誌やムック、WEBなどでインタビュー、解説記事などを執筆。共著『現代映画用語事典』(キネマ旬報社)


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