【コラム 2016年注目の俳優たち】 第19回 妻夫木聡&綾野剛 俳優がLGBTを演じることの意義 『怒り』ほか

2016年9月20日 / 14:17
(C) 2016映画「怒り」製作委員会

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 21世紀に入って世界中で脚光を浴びるようになった“LGBT”と呼ばれる性的マイノリティーの存在。それは今や、映画界にとっても大きな関心事となっている。

 世界で初めて性別適合手術を受けた人物とその妻を主人公にした『リリーのすべて』(15)、育児放棄されたダウン症の少年とゲイカップルの絆を描いた『チョコレートドーナツ』(12)など、ここ数年、海外ではこの問題に正面から取り組んだ作品が次々と作られている。

 そしてそれは、日本も例外ではない。渡辺謙、宮崎あおいら豪華キャストが顔をそろえた『怒り』(全国公開中)は、未解決の殺人事件を巡って、3組の人々の間に巻き起こる波紋を描いた重厚な人間ドラマだ。この3組のエピソードの一つで同性愛のカップルを演じているのが、妻夫木聡と綾野剛である。

 劇中では、2人が出会い、共に暮らす様子がベッドシーンを交えつつきめ細やかな演出で描かれている。その様子は、一般的な男女のカップルと何ら変わるところがない。この役を演じるに当たって、妻夫木と綾野は、実際に2人で同居生活を送ったという。

 俳優が演技をするには、表面的なイメージではなく、一人の人間としてその役を理解する必要がある。そのため、力のある俳優が映画やドラマで社会的マイノリティーを演じることは、彼らに対する観客の理解を深めることにもつながる。『リンカーン』(12)や『それでも夜は明ける』(13)などの映画でアメリカの黒人差別の歴史を学んだ人も多いだろう。LGBTも同様だ。

 『怒り』はLGBTを主題にした作品ではないが、真正面から役と向き合った妻夫木と綾野の演技は、同性愛者を一人の人間として実感させる力にあふれている。

 そしてもう一つ、LGBTを題材にした映画が現在公開されている。『ハイヒール革命!』は、トランスジェンダー(=心と体の性が一致しない人)である真境名ナツキの少年時代から現在までの歩みを、本人及び関係者へのインタビューと再現ドラマでつづった作品だ。

 その再現ドラマ部分でナツキを演じているのが、大河ドラマ「龍馬伝」(10)や『ガッチャマン』(13)などで活躍してきた子役出身の濱田龍臣。その女装姿のかわいらしさも話題になっており、まだ16歳の濱田がトランスジェンダーを演じたことは、本人にとっても作品にとってもプラスになったに違いない。

 アメリカではすでに、『ミルク』(08)で、史上初めて同性愛者であることを公表して公職に就いた人物を演じたショーン・ペンがアカデミー賞主演男優賞を受賞するなど、LGBTを演じることが高い評価を受けるようになっている。

 もちろん、映画やドラマが全ての問題を解決するわけではない。だがいずれは日本でも、LGBTへの理解がさらに深まり、その存在が特別なものではなくなる日が訪れるに違いない。俳優たちの熱演がその一助となることを期待してやまない。

 (ライター:井上健一):映画を中心に、雑誌やムック、WEBなどでインタビュー、解説記事などを執筆。共著『現代映画用語事典』(キネマ旬報社)


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