【コラム 2016年注目の俳優たち】 第17回 神木隆之介&上白石萌音 アニメーションで活躍する若手俳優たち 『君の名は。』ほか

2016年9月6日 / 14:50
(C)2016『君の名は。』製作委員会

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 現在、記録的大ヒットで話題を集めるアニメーション映画『君の名は。』。実写と見まがうほどの美しい映像と思春期の少年少女の感情の機微をすくい取った新海誠監督ならではの繊細な演出、主人公2人のすれ違いの物語が多くの観客の心を捉えた。

 この作品で主人公・立花瀧の声を演じているのが、『TOO YOUNG TO DIE!若くして死ぬ』(16)をはじめ、多数の映画やドラマで活躍する神木隆之介。新海作品の熱烈なファンを公言する神木は、言葉の一つ一つにまでこだわって演じたという。

 もう1人の主人公・宮水三葉を演じるのは、『舞妓はレディ』(14)、『ちはやふる』二部作(16)などで活躍する上白石萌音。実写作品ではおっとりした印象が強い上白石だが、本作ではきびきびとした女子高生の三葉、そして心と体が入れ替わった瀧をはつらつと演じて、鮮烈な印象を残す。

 幼いころから俳優として活動してきた神木は、『千と千尋の神隠し』(01)や『ハウルの動く城』(04)など、アニメーションへの出演経験も豊富だ。上白石も、過去に『おおかみこどもの雨と雪』(12)への出演歴がある。近年は彼らのように、実写とアニメーションの垣根を越えて活躍することは珍しくなく、この秋も若手俳優が声の出演を務める作品が続々と公開される。

 それでは、俳優がアニメーションに出演する利点とは何だろうか。

 まず挙げられるのは、容姿に捉われずに済むということだ。声だけなので、異なる性別や人種、動物から宇宙人まで、あらゆる役を演じることができる。

 9月17日公開の『聲の形』には、「真田丸」(16)などで活躍する女優・松岡茉優が小学校時代の主人公役で出演している。そのキャラは、ガキ大将の男の子。普段よりも声のトーンを落としたしゃべりで、はつらつとした少年ぶりを披露。口数が減った5年後の姿との対比が、主人公の心情をくっきりと浮かび上がらせる。松岡が実写で男の子を演じることなど想像できないが、アニメーションならそれが可能だ。

 そしてもう一つ、顔の出ないアニメーションは、本人の印象を和らげることができる。ある作品で強い印象を残した俳優は、他の作品に起用されにくくなる場合があるが、アニメーションであればそのハードルは低くなる。

 最近では、『この世界の片隅に』(11/12公開)に出演するのん(旧芸名、能年玲奈)がその好例だろう。「あまちゃん」(13)でブレークしながらも、トラブルを抱えて活動が制限されていたが、本作の予告編が公開されると、素朴な絵柄とマッチした声が「ぴったり」と評判に。再スタートを切る彼女にとって、スムーズな滑り出しになったのではないだろうか。

 キネマ旬報8月上旬号のインタビューで神木が、「キャラクターのテンションに合わせて声を当てるということは全くの別物」と語っているように、実写とアニメーションでは異なる部分も多い。だからこそ、声優という専門職が存在すると言えるだろう。とはいえ、若い俳優がアニメーションに出演することで得るものは多いはず。ハリウッドでも有名スターのアニメーション出演が当たり前になっている今、若手俳優たちのボーダーレスな活躍にも注目したい。

 (ライター:井上健一):映画を中心に、雑誌やムック、WEBなどでインタビュー、解説記事などを執筆。共著『現代映画用語事典』(キネマ旬報社)


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