NHKで放送中の大河ドラマ「軍師官兵衛」に織田信長役で出演している俳優の江口洋介がインタビューに応じ、信長への思いや魅力、撮影中のエピソードを語った。
江口が演じる織田信長は、広い視野と天才的な発想で大胆な改革を次々に実行し、日本の社会を中世から近世へと大転換させた革命児。その革新性に憧れと期待を抱いていた黒田官兵衛(岡田准一)にも大きな影響を与え、「官兵衛の運命を変えたカリスマ」とされる。しかし、その非情さに官兵衛もやがて危うさを感じるようになり、最期は非業の死を遂げた人物だ。
-これまで織田信長を演じてきた印象を聞かせてください。
信長は冷徹な印象が強い人物だと思いますが、今回は『岡田くんが演じる官兵衛との絆を大切にした“青春グラフィティー”をイメージして描きたい』という話を撮影に入る前に聞いていたので、その延長線上にある信長像を演じようと思いました。信長の持っている独創性や狂気性、一から時代を切り開き『信長がいなかったら今の日本はどうなっていたのか』と思わせる部分もありますが、官兵衛との関係性を大切にする、そんな信長だと思っています。
-信長を演じるに当たり、事前に何か準備されましたか。
出演が決まってからさまざまな本や資料を読み、勉強はしたのですが「このドラマの中で僕が演じる信長はどんなふうに存在するべきか」を考えることの方が大切だと思い、前もって準備をするのではなく、現場でスタッフと相談しながら作っています。
-演じる上で大切にされていることはありますか。
信長が生きた厳しい時代の緊張感を、限られた出演シーンの中で表現できればいいと思っています。スタッフも「もっと怖く、信長の持つ威圧感をどう出していきましょうか」と聞いてくれますし、アイデアを出し合いながらやらせてもらっていますね。
-ドラマの中ではお茶を好むなど、これまであまり描かれなかった信長が登場しますが。
冷徹で残虐なイメージのある信長が茶会を楽しんでいたというのは面白いし、興味深いです。スタッフが信長を描くに当たってとても楽しみながら想像力を使って取り組んでくださり、信長が持っていた美意識を表現してくれています。
-茶会のシーンではとても高価な茶器が小道具として使われたと聞きました。
かなり高価なものだろうと思っていましたが、それを役者に伝えると演技に支障を来すと思ったのか、事前にスタッフからそういうことは聞きませんでした。演技中に手が滑りそうになって、スタッフ全員がヒヤッとした顔になった瞬間はありましたけど…(笑)。
-大河ドラマならではの豪華なセットはいかがですか。
本当に素晴らしいです。撮影前に「信長の個性が分かるようなセットにします」と聞いてはいましたが、赤いろうそくや血のような色のセットの中で、信長がソファーに座ってワインを飲んでいるという演出には驚きました。ちょっと疲れそうなセットですが、信長を演じているとエネルギーが湧いてくる感覚がします。
-信長についてお好きなエピソードはありますか。
ドラマでは一話で桶狭間(おけはざま)の戦いまで描かれていますが、その前の「うつけもの」と呼ばれていた若いころの信長が好きなんです。糸の切れた凧のような、想像を超えた言動をする信長や、成り上がる前の信長がどういう可能性を秘めた人間だったのかが気になりますし、演じてみたかったです。
-信長に共感できる部分は何かありますか。
政治的にも立場的にも多くの決断をしているにもかかわらず、突然鷹狩りに行ってしまう行動的なところは自分に似ていると思います。考える前に体が動いていたり、あまり周りを気にしないところなども。
-制作発表会見で豊臣秀吉を演じる竹中直人さんとの年齢差が気になるという話をされていましたが、実際に撮影をされてみていかがですか。
最初の2、3話ぐらいまでは少し気になりましたが、竹中さんは秀吉を演じられるのが2度目ということなのであまり心配はしていませんでしたし、実際に撮影が進んでいくと全く気にならなくなりました。
-岡田さん演じる官兵衛の印象はいかがですか。
オンエアを見ていても、回を重ねるごとに男っぽくなっていっていると思います。大河ドラマは普通のドラマや映画の撮影とは全く別物で独特なものです。これまで何度か官兵衛と顔を合わせるシーンがありましたが、強い意気込みを感じました。後半に向けて官兵衛の活躍を楽しみにしています。
-信長が壮絶な最期を遂げる本能寺の変についてどのように演じようと考えていますか。
天下統一のために、たくさんの人をあやめ、残酷なこともしてきた信長が最期の瞬間を悟った時、「俺のやり方はこれで良かったのだろうか」と後悔にも似た感情がよぎるかもしれない。信長の正直な人間味を見せられる唯一の瞬間になると思います。