エンターテインメント・ウェブマガジン
公開中の『カルテット!人生のオペラハウス』が好評を得ている。本作は『クレイマー、クレイマー』(79)と『レインマン』(88)で2度のアカデミー賞主演男優賞に輝いたダスティン・ホフマンが75歳にして監督デビューを果たした作品。引退した音楽家たちが暮らす老人ホームを舞台にしたヒューマンコメディーだ。
物語の中心に描かれるオペラ歌手を演じたのは、イギリスの名優であるマギー・スミス、トム・コートネイ、ビリー・コノリー、ポーリーン・コリンズの4人。彼らが奏でる“演技の四重奏”が楽しいのはもちろん、本作は本物のミュージシャンたちが実際に歌い、演奏しているところが素晴らしい。
先日来日したホフマンは「アメリカは年老いたミュージシャンにリスペクトをしない。彼らは引退をしたわけでもないのに、この20年間仕事がないと言っていた。彼らは朝早くから現場に来て、ずっと撮影に付き合ってくれた。僕は彼らから素晴らしい贈り物をもらったし、彼らにも新しい人生という贈り物ができたと思う」と涙ながらに撮影を振り返っていた。彼は、75歳で初監督をするという自身の新たな挑戦の姿を、映画の登場人物たちに投影させたのだろう。
ところで、映画スターの監督作が高評価を得るようになったのは、ロバート・レッドフォードが『普通の人々』でアカデミー賞監督賞を受賞した1980年から。続いて、ウォーレン・ベイティが『レッズ』(81)で、ケビン・コスナーが『ダンス・ウィズ・ウルブズ』(90)で、クリント・イーストウッドが『許されざる者』(92)と『ミリオンダラー・ベイビー』(04)で、そしてメル・ギブソンが『ブレイブ・ハート』(95)で、それぞれアカデミー賞監督賞を受賞した。ところが、コスナーとギブソンは、受賞後、私生活でのスキャンダルなどもあり、俳優としては落ち目になってしまったのだから皮肉なものだ。
今年のアカデミー賞ではベン・アフレックが監督した『アルゴ』が作品賞を受賞したが、惜しくも監督賞にはノミネートされなかった。いずれにせよ、スターの監督作は長寿の反映として今後も増え続ける公算大。ホフマンが、ポルトガル出身で104歳の現役最高齢監督マノエル・ド・オリベイラを例に挙げながら「自分はまだまだだよ」と語っていたのが印象的だった。(田中雄二)