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映画監督の大島渚さんが15日に亡くなった。大島監督の映画は先鋭的なテーマを扱ったものが多かったが、対照的に、“家族”という地味なテーマを50年以上にわたって描き続けてきたのが山田洋次監督だ。くしくも2人は松竹に同期入社した間柄である。
その山田監督の集大成とも言える『東京家族』が19日から全国公開された。山田監督にとっては松竹の大先輩に当たる小津安二郎監督の『東京物語』(53)をモチーフに、瀬戸内海の小島で暮らす老夫婦が、東京で暮らす子どもたちに会うために上京する姿を通して、家族の絆と別れ、そして希望を描いていく。
人物設定はおおむね『東京物語』を踏襲しているが、大きく異なるのは『東京物語』では戦死して登場しなかった次男の昌次が、『東京家族』では家族をつなぐキーパーソンとして登場するところだ。不器用な生き方しかできず、家族にとっては困った存在なのになぜか憎めないという昌次は、『男はつらいよ』シリーズの寅さん(渥美清)、『息子』の次男(永瀬正敏)、『おとうと』のヒロインの弟(笑福亭鶴瓶)といった過去の山田作品の登場人物にも通じるものがある。この山田映画の真骨頂を示す昌次というキャラクターを、妻夫木聡が好演している。
「東日本大震災が、もう一度家族のことを考えるきっかけになった。それを念頭に置きながら撮った。家族って、やっかいだけど、いとおしい、というところを描きたかった」という山田監督。その言葉通り、本作は、見終わった後で、久しぶりに親や子どもに電話をしたくなるような、実家に顔を出してみたくなるような、そんな映画に仕上がっている。(田中雄二)