『神は見返りを求める』吉田恵輔監督「自分は何か欠けているものが好きなんだなと」映画界注目の監督がYouTuberの世界を描く異色のラブストーリーに込めた思い【インタビュー】

2022年6月23日 / 08:00

 底辺YouTuberのゆりちゃん(岸井ゆきの)と彼女を献身的に支える中年男性・田母神(ムロツヨシ)。信頼で結ばれていた2人の関係が、壮絶な愛憎劇に発展するさまをシニカルでポップなタッチでつづった『神は見返りを求める』が6月24日から公開される。監督は『BLUE/ブルー』、『空白』で、2021年度芸術選奨文部科学大臣新人賞を受賞するなど、日本映画界に確かな足跡を残し続ける吉田恵輔。毎回、独創的な物語で注目を集める吉田監督に、“恩をあだで返す女と見返りを求める男の心温まりづらいラブストーリー”という触れ込みの本作に込めた思いを聞いた。

吉田恵輔監督 (C)エンタメOVO

-とてもユニークな物語で、男女の生々しいけんかの緊迫感と笑いが絶妙に混ざり合い、ハラハラしながら大いに楽しませていただきました。このアイデアはどこから生まれたのでしょうか。

 自分の実体験がベースで、俺が裏切られたことも、恩をあだで返したこともあるので、その辺のことを一度やりたいと思っていたんです。できればそれを男女にしたい、というところからスタートして、プロデューサーの石田(雄治)さんと話し合う中で、音楽プロデューサーとミュージシャン、映画監督と女優とか、いろんな組み合わせを考えました。その中で、あるときふと「YouTuberがいいかも」と思いついて。そうしたら偶然、石田さんも「YouTuberってどうかな?」と提案してくれたので決まりました。

-YouTuberに注目した理由は?

 例えば、映画監督と女優、みたいな関係性はどこかで見たことがあるし、会議室でけんかしてもそこだけの話で終わってしまって世界が狭いんですよね。でもYouTubeを使えば、2人のけんかを全世界が見られるし、外野がそれにコメントする独特の世界観は、世界が広がって面白そうだなと。

-その2人のけんかをムロツヨシさんと岸井ゆきのさんが、ユーモアを交えた絶妙な芝居で表現しています。お二人とも吉田監督とは二度目の顔合わせですね。

 2人とも、以前ご一緒したときから「ずば抜けた才能がある」と思っていました。特に、ゆきのちゃんに関しては、“生徒の1人”みたいな小さな役だったので、もっと掘り下げて撮りたいとずっと思っていたんです。今回、ぴったりな役ができて、出てもらえるチャンスがようやく来たと。しかも、2人とも前回からさらに経験を積んでいるので、横顔一つ取っても、昔よりずっと花がある。だから、現場では「次、何が起きるんだろう?」って、ワクワクしながらお客さんのような気持ちで見ていました。

-2人のけんかを描いたこの作品が、「ラブストーリー」をうたっている点も非常にユニークです。一般的に「ラブストーリー」と聞くと、甘い恋愛をイメージすると思いますが、吉田監督にとっての「ラブストーリー」とはどんなものでしょうか。

 ラブストーリーって、何にでも当てはまると思うんです。例えば、『ジュラシックパーク』だって、テーマは恐竜でも男女が手をつないで逃げていたら、「愛が芽生えているのかな?」と勝手に想像するじゃないですか。その中でも、俺が心を動かされるのは、「手に入らないもの」というか…。寝ていると、夢に過去の恋愛対象だった女の子が出てくることがあるんですけど、デートして、そろそろ付き合おうか、ぐらいの関係だったのに、結局うまくいかなかった子ばかり。付き合った子や、単純に片思いの相手は出てこないんです。夢には執着が出やすいと思っているので、俺は成就しなかったものに引かれるんだなと。そういう「届きそうで届かなかった」みたいなラブストーリーが、たぶんちょうどいいんでしょうね。

-この映画の田母神が、まさにそんな感じですね。

 そうですね。だから5年後、10年後、田母神の夢にゆりちゃんが出てくると思います(笑)。

-個人的な思いという話でさらに伺います。本作には、これまで吉田監督の映画に欠かさず登場してきた“家族”の姿が一切見えません。それが、人を一面で判断するネット社会の危うさを描くことにつながっている気がしますが、その辺は意図的に?

 確かに、今回は一面を見せることに徹している感じですよね。ただそれは、特に意識していたわけでなく、言われて初めて気付いた感じです(笑)。いつもはキャラクターを説明する際、家族や友人などいろんな関係性を作って埋めていくので、今回もホンを書いているとき、「YouTubeで活躍しているらしいね」みたいなやりとりを入れようかと思ったんです。でも、あまり広げないようにと思って全部排除したような気がします。

 
  • 1
  • 2

特集・インタビューFEATURE & INTERVIEW

安田顕「水上くんの目に“本物”を感じた」水上恒司「安田さんのお芝居に強い影響を受けた」 世界が注目するサスペンスで初共演&ダブル主演「連続ドラマW 怪物」【インタビュー】

ドラマ2025年7月5日

 韓国の百想芸術大賞で作品賞、脚本賞、男性最優秀演技賞の3冠を達成した極上のサスペンス「怪物」。WOWOWが世界で初めてそのリメイクに挑んだ「連続ドラマW 怪物」(全10話)が、7月6日(日)午後10時から放送・配信スタート(第1話・第2話 … 続きを読む

TBS日曜劇場「19番目のカルテ」が7月13日スタート 新米医師・滝野みずき役の小芝風花が作品への思いを語った

ドラマ2025年7月5日

 7月13日(日)にスタートする、松本潤主演の日曜劇場「19番目のカルテ」(TBS 毎週日曜夜9時~9時54分)。原作は富士屋カツヒト氏による連載漫画「19番目のカルテ 徳重晃の問診」 (ゼノンコミックス/コアミックス)。脚本は、「コウノド … 続きを読む

南沙良「人間関係に悩む人たちに寄り添えたら」井樫彩監督「南さんは陽彩役にぴったり」期待の新鋭2人が挑んだ鮮烈な青春映画『愛されなくても別に』【インタビュー】

映画2025年7月4日

 第42 回吉川英治文学新人賞を受賞した武田綾乃の小説を原作にした鮮烈な青春映画『愛されなくても別に』が、7月4日公開となる。浪費家の母(河井青葉)に代わってアルバイトで生活を支えながら、奨学金で大学に通う主人公・宮田陽彩が、過酷な境遇を受 … 続きを読む

紅ゆずる、歌舞伎町の女王役に意欲「女王としてのたたずまいや圧倒的な存在感を作っていけたら」【インタビュー】

舞台・ミュージカル2025年7月4日

 2019年に宝塚歌劇団を退団して以降、今も多方面で活躍を続ける紅ゆずる。7月13日から開幕する、ふぉ~ゆ~ meets 梅棒「Only 1,NOT No.1」では初めて全編ノン・バーバル(せりふなし)の作品に挑戦する。  物語の舞台は歌舞 … 続きを読む

【Kカルチャーの視点】異領域を融合する舞台芸術、演出家イ・インボの挑戦

舞台・ミュージカル2025年7月3日

 グローバルな広がりを見せるKカルチャー。日韓国交正常化60周年を記念し、6月28日に大阪市内で上演された「職人の時間 光と風」は、数ある韓国公演の中でも異彩を放っていた。文化をただ“見せる”のではなく、伝統×現代、職人×芸人、工芸×舞台芸 … 続きを読む

Willfriends

page top