【インタビュー】映画『ザ・ユナイテッド・ステイツvs.ビリー・ホリデイ』リー・ダニエルズ監督「ビリーがヒーローだからこそ、この物語を伝えることは重要だと思いました」

2022年2月9日 / 07:15

 1959年に44歳の若さで死去したアメリカジャズ界の伝説的歌手ビリー・ホリデイ(アンドラ・デイ)の生涯を描いた伝記ドラマ『ザ・ユナイテッド・ステイツvs.ビリー・ホリデイ』が、2月11日から全国公開される。人種差別を告発する「奇妙な果実」を歌い続けたことで、FBIからターゲットとして狙われたエピソードに焦点を当てて描いたリー・ダニエルズ監督に、映画に込めた思いや、映画製作者としての姿勢を聞いた。

ビリー・ホリデイ役のアンドラ・デイ(右)に演技指導をするリー・ダニエルズ監督

-今回、ビリー・ホリデイの映画を作ろうと思ったきっかけは?

 「このプロジェクトをやりたい」と思うときに、いつも、「これだ」という理由が特にあるわけではありません。今回は、無意識のうちにニュースや人々との会話を通して、自分の心の中に何かが起きていると感じて、それがビリー・ホリデイの物語とつながったところがあります。もともと、ダイアナ・ロスが主演した『ビリー・ホリデイ物語/奇妙な果実』(72)に感銘を受けて、そのことが映画製作者になるきっかけになったところがあります。あの映画は、初めてハーレムで暮らす美しいアフリカ系アメリカ人の生活をリアルに描きました。それこそ豚足からアップルパイまでいろんなにおいが漂ってくるような感じがしました。だから、自分が監督をしてビリーの物語を作ったことには、少し運命的なものも感じます。

-では、今回「奇妙な果実」という曲を媒介にして、ビリーと当局との対立を中心に描いた意図は、どんなところにあったのでしょうか。

 『ビリー・ホリデイ物語/奇妙な果実』では、ビリーに関する真実は語られていませんでした。きっとアメリカは、まだ皆にそのことを隠しておきたかったのでしょう。今回、原作と脚本を読んだときに、ビリーが本当にしたことを知って圧倒されました。彼女は、黒人に対するリンチを目撃したから「奇妙な果実」を歌いたいと思っただけなのに、政府は彼女を追跡し、無理やり薬物を隠し持たせて捕えようとしたり、おとしめようとしたわけです。このことは学校でも教えられていません。なので、それを知ったときに、「この物語を作らなければ、伝えなければならない」と思いました。

 『大統領執事の涙』(13)を作ったときに、当時12歳だった息子に「パパ、これ本当にあったことなの?」と聞かれました。それで「高いお金を払って私立に行かせているのに、そんなことも教えてもらっていないのか」と怒りを覚えました。政府やメディアが真実を知らせないということはいまだに続いていて、今回は、ビリーがヒーローだからこそ、この物語を伝えることは重要だと思いました。

-『ビリー・ホリデイ物語/奇妙な果実』は、白人のシドニー・J・フューリー監督が撮った黒人の映画でしたが、今回は黒人の監督が撮った黒人の映画でした。そのことも含めて、もちろん時代差はありますが、黒人の描き方や、映画製作の変化についてどう感じていますか。

 あの映画は、確かに白人のフューリー監督がクレジットされていますが、実際はプロデューサーのベリー・ゴーディが大きく貢献した映画だと思います。彼はビリーとも友だちでしたし、ダイアナの演技も素晴らしかった。私は、自分の親以外の黒人同士がキスをしているところを見たのは、あの映画が初めてでした。「ほかの人もするんだ」と思ってちょっとショックを受けました。なので、スタイル自体は、今回の映画とも大きな差はありませんが、ストーリーは大きく違います。当時は、政府も製作会社のパラマウントも、ビリーの真実の物語を世に出すことは絶対に許さなかったと思います。

 それとともに、ビリーの夫となるルイス・マッケイをビリー・ディー・ウィリアムズが演じて、割とイケメンのいいやつのように描かれていましたが、実際はそうではなくて、虐待もし、ビリーからいろいろなものを盗んだりもしました。私の映画に比べると、あの映画は虐待や薬物のことはそれほどディープには描いていません。少しだけ見せればダークさが伝わると思ったのでしょう。虐待や薬のシーンは一度しかありませんでしたが、それがとても強烈だったので、何度も見せなくても表現できたのではないかと思います。

 
  • 1
  • 2

関連ニュースRELATED NEWS

特集・インタビューFEATURE & INTERVIEW

佐々木蔵之介「この映画を見た後で自分の気持ちがさまようようなところがあるので、誰かと一緒に見てほしいと思います」『名無し』【インタビュー】

映画2026年5月22日

 その男が右手で触れた瞬間、相手は消え、死が訪れる。世にも奇妙な凶器なき犯行と謎に包まれた動機とは…。俳優だけでなく、脚本家、映画監督としても活躍する佐藤二朗が、初めて漫画原作を手がけたサイコバイオレンスを、自らの主演・脚本、城定秀夫監督で … 続きを読む

宮野真守&神山智洋、初共演の二人が作り上げる、劇団☆新感線のドタバタ音楽活劇ミステリー 「多幸感にあふれた作品をお届けしたい」【インタビュー】

舞台・ミュージカル2026年5月22日

 宮野真守と神山智洋(WEST.)が出演する、2026年劇団☆新感線46周年興行・夏公演 SHINKANSEN☆RSP 怪奇骨董音楽劇「アケチコ!~蒸気の黒ダイヤ、あるいは狂気の島~」が、6月12日から上演される。本作は、脚本に劇作家の福原 … 続きを読む

「豊臣兄弟!」第19回「過去からの刺客」慶の心を動かした小一郎の言葉【大河ドラマコラム】

ドラマ2026年5月21日

 NHKで好評放送中の大河ドラマ「豊臣兄弟!」。戦国時代、主人公・豊臣秀長(=小一郎/仲野太賀)が、兄・秀吉(=羽柴秀吉/池松壮亮)を支え、兄弟で天下統一を成し遂げるまでの軌跡を描く物語は快調に進行中。5月17日に放送された第19回「過去か … 続きを読む

唐沢寿明「こんなにひどい男をやってよかったのかなという後悔はちょっとありました」『ミステリー・アリーナ』【インタビュー】

映画2026年5月21日

 推理力に覚えのある解答者たちが、国民的な人気を誇る推理ショーを舞台に、頭脳戦を繰り広げるさまを描いた深水黎一郎の同名小説を、堤幸彦監督が映画化した『ミステリー・アリーナ』が、5月22日から全国公開される。本作でクレージーな天才司会者・樺山 … 続きを読む

川島鈴遥、森田想「この映画は、ちょっと落ち込んだ時とかに見るといいかもしれません。きっと心が軽くなります」【インタビュー】『いろは』

映画2026年5月21日

 長崎で巻き起こる「ドロドロのダメ男巡り」と「ヒリつく姉妹の絆」を描いた青春ロードムービー『いろは』が5月22日から全国公開される。妹の伊呂波を演じた川島鈴遥と姉の花蓮を演じた森田想に話を聞いた。 -最初に脚本を読んだ時の印象から伺います。 … 続きを読む

page top