【インタビュー】『この国の空』二階堂ふみ 「戦争を身近に感じられる映画になると思った」

2015年8月5日 / 12:00

 高井有一の小説『この国の空』を荒井晴彦監督が映画化した。太平洋戦争末期、度重なる米軍の空襲に耐えながら過ごす19歳の里子(二階堂ふみ)が、妻子を疎開させて一人で暮らす隣家の市毛(長谷川博己)と交わす切ない思いのゆくえを描く。『私の男』など数々の話題作で感情を激しく揺さぶる演技を見せてきた二階堂が、里子の少女から女性へと成長していく過程と、戦争に翻弄(ほんろう)された一人の女性が抱く切迫感を語る。

 

2015「この国の空」製作委員会

2015「この国の空」製作委員会

-この映画の話が来たときの印象は?

  沖縄で生まれ育っているので戦争についての教育は受けましたが、脚本を読んだ時に「戦争をわが身で実感する作品は初めてだ」と思いました。映画のナレーションで朗読される茨木のり子さんの「わたしが一番きれいだったとき」という詩そのもので、戦争が題材の作品を作る時に私が思い描いていたことが脚本に書かれていたので、ぜひやりたいと思いました。

-沖縄出身ということは、他の同世代の人よりも戦争に対する思いが強いのでは?

  (沖縄以外の)他の人も意識としては持っているはずです。それに私は戦争への思いが特に強いわけではなく、なぜ戦争に向かっていったのか、その時人々がどう感じていたのかが重要だと思っています。私は戦争を知りませんが、その時代に生きていた人たちが語ることを、私たちが語り継いでいかなければならないと思います。

-里子のせりふ回しには特徴がありますね。

  せりふ回しとしぐさは全部作り込みました。脚本の中に美しい言葉がたくさんあったので、それを映像の中で生かしたいと思いました。そうすれば、せりふにその時代、空間に生きている女性の重みを持たせられるし、説得力も出ますから。昔の成瀬巳喜男監督や小津安二郎監督の作品に出てくる女優さんは、日本語が美しく聞こえるような話し方をされていると思っていたので、かなり意識しました。

-里子が抱く抑圧感と切迫感の表現が絶妙です。

  里子は若くて情熱的なのにそれをどこにぶつけていいのか分からない。また、里子と市毛の関係は恋でも愛でもなく、もっと本能的なものだと思います。神社での市毛とのシーンで里子は一気に解き放たれます。それまでは全部頭の中で整理できていたのに、歯止めが利かなくなります。終戦が近付くに連れて里子の中の熱は大きくなりますが、戦争が終われば市毛の奥さんも子どもも帰ってくる。そう考えた時に、里子には“女として生きる”という強い思いと“女としての目覚め”が生じたのだと思います。

-本作は戦争映画としては異色の作品ですが、どう感じましたか。

  戦場や戦地をリアルに映像化するのも重要だと思いますが、私はそういうものを見てもあまり身近なことだとは思えないんです。でも、それはすごく怖いことですよね。里子には(戦争そのものよりも)女としての幸せがなくなることの方が重要で、自分の「一番きれいだった」時代を奪われたという悲壮感があります。そうした悲劇を描くことで、見ている人が戦争を身近に感じられる映画になるのではないかと思いました。

 

2015「この国の空」製作委員会

2015「この国の空」製作委員会

『この国の空』は8月8日(土)より、テアトル新宿、丸の内TOEI、シネ・リーブル池袋ほか全国ロードショー。


特集・インタビューFEATURE & INTERVIEW

JT・モルナー監督「この映画の実現は厳しいと言われた時に、『羅生門』を見れば分かると言いました」『ストレンジ・ダーリン』【インタビュー】

映画2025年7月11日

 シリアルキラーの恐怖に包まれた街を舞台に、とある男女の出会いが予測不能な展開へと突き進んでいく様子を、時系列を巧みに交錯させた全6章の構成で描いたスリラー映画『ストレンジ・ダーリン』が7月11日から全国公開される。米映画批評サイトのロッテ … 続きを読む

鹿賀丈史「演じることよりも感じることの方が先だったかなと思います」『生きがい IKIGAI』【インタビュー】

映画2025年7月10日

 2024年の元旦に発生した地震で甚大な被害を受け、さらに8カ月後の豪雨によって2度目の災害に見舞われた能登で、ボランティア活動に参加した宮本亞門監督が、復興支援を目的に製作したショートフィルム北陸能登復興支援映画『生きがい IKIGAI』 … 続きを読む

千賀健永、頭が良くてゲームが上手な弟に「かわいい復讐心はありました」【インタビュー】

ドラマ2025年7月7日

 トリンドル玲奈が主演するドラマ「レプリカ 元妻の復讐」が、7日23時6分からテレ東系で放送がスタートする。本作は原作・タナカトモ氏、作画・ひらいはっち氏による同名漫画を映像化。整形して別人として生きる主人公・伊藤すみれ(トリンドル)が、人 … 続きを読む

安田顕「水上くんの目に“本物”を感じた」水上恒司「安田さんのお芝居に強い影響を受けた」 世界が注目するサスペンスで初共演&ダブル主演「連続ドラマW 怪物」【インタビュー】

ドラマ2025年7月5日

 韓国の百想芸術大賞で作品賞、脚本賞、男性最優秀演技賞の3冠を達成した極上のサスペンス「怪物」。WOWOWが世界で初めてそのリメイクに挑んだ「連続ドラマW 怪物」(全10話)が、7月6日(日)午後10時から放送・配信スタート(第1話・第2話 … 続きを読む

TBS日曜劇場「19番目のカルテ」が7月13日スタート 新米医師・滝野みずき役の小芝風花が作品への思いを語った

ドラマ2025年7月5日

 7月13日(日)にスタートする、松本潤主演の日曜劇場「19番目のカルテ」(TBS 毎週日曜夜9時~9時54分)。原作は富士屋カツヒト氏による連載漫画「19番目のカルテ 徳重晃の問診」 (ゼノンコミックス/コアミックス)。脚本は、「コウノド … 続きを読む

Willfriends

page top