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生田さんで印象に残っているのが、何事にも動じないことです。常に泰然自若として、変なクセを出さない。ある意味、視聴者に想像させるようなキャラクター作りをしてくださったなと。例えば、治済がたびたび手にしていた能面。一橋家には立派な能舞台があり、治済が能を好んだという史実も残っているので、森下さんとも相談の上で小道具として使っています。といっても、一見意味深な能面を見ている姿も、治済にとっては能が好きだから、というだけ。それでも、視聴者やそれを見た登場人物がそこからいろんな想像をして、勝手に忖度(そんたく)し、動いていく。生田さんは、そういう部分の作り込みがとても上手で。それが、治済のキャラクターが膨らんでいった大きな要因だと思います。
そこが、生田さんのうまさであり、表現力の豊かさです。治済を単に「怖い」ではなく、「不気味だ」と視聴者が感じられたのは、森下さんの脚本の妙に加え、せりふの「…」を表現する生田さんの巧みなお芝居による部分も大きかったと思います。芋を食べるだけで悪そうに見える人なんて、そうはいませんよね。
蔦重と長谷川平蔵(中村隼人)の最後でもあり、2人の共通項である吉原を今後どうしていくかを考えるシーンもある中で、蔦重と瀬川が交わした約束を忘れてはいけないだろうと。そこから、あのシーンが生まれました。あそこでは、彼女を見た蔦重と平蔵の“今”を表現したかったので、あの“瀬川らしき人”は、後ろ姿のみ。視聴者の皆さんには、2人の表情から、彼女がどんな暮らしを送っているのか、感じ取っていただければと考えました。
綾瀬さんはこれまで2度劇中に登場しましたが、横浜さんとのお芝居は初めてだったので、お二人とも楽しんでいました。綾瀬さんには今回、神の使いということで巫女(みこ)の格好をしてもらいましたが、これまで同様に尻尾をつけています。ただ、今まで常にぶら下げていた携帯は、今回はありません。クランクインした2024年は、世間でそういうはやりがありましたが、今はもうその流行は過ぎたという事で。九郎助稲荷は、現代も生きていますから。
戦国時代などに比べ、常に生死を身近に感じることがなかった分、江戸時代は今のわれわれに近い暮らしだった気がします。その中でどう生きるのか。それは、今を生きるわれわれにも通じる問いかけです。そんなふうに、江戸時代を知れば知るほど、今のわれわれにフィットしてくることを、この1年で痛感しました。また、大きなエピソードや事件だけが歴史になるのではなく、何もなくても歴史は作られていく。そういった何でもない日常を大河ドラマとして描くことができたのは大きな一歩で、視聴者の皆さんがそれを「面白い」と言ってくださったことは、僕たちにとっても大きな励みになりました。
-最後に、1年間、蔦重を演じ切った横浜流星さんの印象を教えてください。
ストイックな姿勢は変わりませんが、一人の人物を長く演じるのは初めてだったので、その責任感や表現に取り組む様子は大きく変わったと思います。蔦重が年を取るにつれ、若い絵師や狂歌師、戯作者たちをどう受け止めていったらいいのか。後半は特に、そういう受けの演技が磨かれていった気がします。さらに、横浜さんと話していたのは、成功者ゆえの傲慢(ごうまん)さやある種の老害感をどう表現していくのかということです。その点は苦労した分、さまざまな答えを見つけたのではないでしょうか。そういうものを一つ一つ咀嚼(そしゃく)していったことが、最終回につながっていったのだと思います。
(取材・文/井上健一)

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