エンターテインメント・ウェブマガジン
横浜さんほどストイックな座長は見たことがありません。共演は今回が初めてですが、実は横浜さんとは10年位前からオーディションでよく見かけていて、ワークショップでも一緒になることがあったんです。その時も自分が持ってきたものをしっかり出していたので、とてもストイックできちんとした方、という印象は当時から持っていました。
しかも今回は主演ということで、1年半近い収録期間中、そのストイックさを貫く忍耐力は本当にすごいなと。収録の空き時間も、僕がスタジオの隅でせりふの練習をしていると、いつの間にか横浜さんが隣にいて、一緒に付き合ってくれるんです。だから、2人でずっとせりふ合わせをしていた印象です。お芝居も、いつも台本から予想していた以上のものを披露されるので、驚かされっぱなしでした。
小野さんご自身の特性やお芝居からは「きちんと生きている人」という雰囲気を感じることができました。おかげで、「つけを回されるのは、私らみたいな地べたをはいつくばってるやつ」などといった庶民の感覚を伝えるふくのせりふにも説得力がありました。ただ、新之助にとってはそれが、「最愛の人にそんな生活をさせている」という苦しさにもつながるんですよね。そういう感情を引き出してもらったのも、小野さんのおかげです。ふくは、小野さん以外に考えられませんでした。
僕自身も生活感のある庶民の匂いを出せたら、と考えていたので、それを受け止め、温かく見守ってくださったことがうれしかったです。
森下さんの作品は、常に多様な視点から物語が紡がれるんです。この作品でも、蔦重の周囲の人々や田沼意次(渡辺謙)をはじめとした幕府の役人たち、新之助たち農民、それぞれの正義がきちんと描かれている。しかも、どのキャラクターも生き生きしている上に、胸が痛くなるようなせりふがちりばめられていて。だから、あれほど世話になった蔦重に対して、新之助が多少きついことを言っても、視聴者の方々は理解してくれるんですよね。それが、皆さんの応援にもつながったのかなと思います。
最初の本読みの時にお会いして、「期待しているから」という一言をいただき、身の引き締まる思いがしました。
そうだったらうれしいです。
新之助が亡くなる直前、打ち壊しの騒動が収まり、民衆が「銀が降る!」と大騒ぎしている場面で、台本のト書きに「それはエンターテインメントが起こした奇跡の瞬間」と書かれていたんです。それを読み、「この作品って、こういうことなんだよな」と思って。しかもそれが自分のシーンで書かれていたことがうれしく、その一言が大好きになりました。そんなふうに、文化が世の中を動かしていく様がこれからも描かれていくと思うので、その渦中で必死に生きる蔦重や登場人物たちの生きざまを、ぜひ最後まで見守ってください。
(取材・文/井上健一)

(C)NHK
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