安田章大「体験したことのない違和感を持ち帰ってくれたら」 アングラ演劇の旗手・唐十郎作品に関西弁で挑む『アリババ』『愛の乞食』【インタビュー】

2025年7月18日 / 12:00

(C)エンタメOVO

-「違和感を持ち帰ってほしい」ということですが、今の世の中、「分からないもの」は何かと切り捨てられがちです。その点については、どのようにお考えでしょうか。

 まず、僕自身は分からないものを提示しているつもりはありません。だから、その人の中で理解が追いつく時がきっとくるはずだし、その理解の仕方は人それぞれでいいと思うんです。そのためにまずは、分からないという違和感を受け止めてもらえれば。違和感があるということは、その人の中に今までなかったページができたということなので、それを異物として捉えることが、自分をもう一度考えるきっかけになるんじゃないかなと。誰もがすんなり理解できるものより、ちょっと頑張らないと、というくらいの方が、人間的な成長や豊かさにつながると思いますし。

-おっしゃる通りですね。

 そういう意味では、女性のおなかに新しい命が宿ったときにも似ているのかなと。その新しい命を異物として受け止めるから、体が色々な訴えを始め、それと共に母親もおなかの子も育っていくわけですから。そんなふうに、ご覧になった方の中に異物が生まれることが、演じる側にとって、唐作品の一番の魅力です。

-「分からない」で切り捨てられない魅力が唐作品にはあるということでしょうか。

 唐さんの作品は、宿っているエネルギーがものすごく強いんです。その点、「名前が売れた、売れない」ではなく、唐さんの言葉を紡げることが、役者として成功の1つだとは僕は思っています。そう言わせるのも、唐さんの築いてきた歴史と実力、つまり“腕力”なんでしょうね。だからといって、決して他の劇団を否定しているわけではありません。ただ、唐さんの戯曲の腕力が少しだけ強かったということなのかなと。僕はそういう唐さんの感情をすべて受け止め、皆さんに伝えていきたいと思っています。

-安田さんは今回の公演について「正解を知っているのは唐さんだけ」とコメントされていますが、正解が分からないものに挑む怖さはありませんか。

 それはありません。答えが分かっているところに飛び込むことほど、白けることはありませんから。分かっているものにすがり、安心できる材料を少しずつつまみながら人生を歩くより、分からない世界を手放しで精いっぱい生きた方が、よほど清々しいと思うんです。たぶん唐さん自身も、自分の作品を「誤読してほしい」と考えていたでしょうし、僕が誤読して演じることで、新しく生まれる答えもあるはずですから。でも、唐さん自身は「本当は僕の中に答えがあるんだけどね」と小さな声で怒っているような人だったんですけど(笑)。それも踏まえて、「唐さん、すいません」と謝りながらやろうと思っています。

-今回は一度に二作品を演じる上に、一日二公演の日もありますが、ご自身の心身の管理についてはいかがでしょうか。

 自分の心身については、何も心配していません。僕は以前、大きな病気で死にかけて以来、今は3回目の人生を過ごしているようなつもりでいます。その中では今が、心身ともに一番元気なんです。何もかも滞ることなく、天地がつながるような気持ちよさがあって。それくらい、自分の中で安定しているので、一日二公演でもまったく問題ありません。だからぜひ、皆さんも劇場に足を運び、唐ワールドに触れてみてください。

(取材・文・写真/井上健一)

『アリババ』『愛の乞食』は7月19日(土) 10時より、チケット一般発売開始。

『アリババ』『愛の乞食』

  • 1
  • 2
 

特集・インタビューFEATURE & INTERVIEW

M!LK・吉田仁人、「怒涛の1年」を振り返り“チームM!LK”に感謝 シリーズ第2弾「FFBE幻影戦争 THE STAGE II」では「第1弾を超えられるような作品に」【インタビュー】

舞台・ミュージカル2026年1月21日

-第2弾に向けての課題は?  今回から参加される新たなキャストの方も多いので、どのように関係性を作っていくのかが大切になってくると思います。前回は、同世代のキャストが少なかったのですが、今回は僕と同じようにアーティスト活動をしながら俳優をし … 続きを読む

志田未来「子どもが泣いていると、うるっとしてしまうのは新しい感情」 火曜ドラマ「未来のムスコ」で母親役【インタビュー】

ドラマ2026年1月20日

 志田未来が主演する火曜ドラマ「未来のムスコ」(TBS系)が、1月13日から放送中だ。本作は、阿相クミコ氏・黒麦はぢめ氏の人気漫画をドラマ化。“定職なし、貯金なし、彼氏なし”の崖っぷちアラサー女子・汐川未来(志田)が、ある日突然5歳児・汐川 … 続きを読む

竹内涼真、5年ぶりの舞台に「リニューアルした自分で臨む」 ミュージカル「奇跡を呼ぶ男」でゴスペルにも挑戦【インタビュー】

舞台・ミュージカル2026年1月17日

-ミュージカルでは歌とダンスがありますが、今、どんな心持ちで準備をされていますか。  すごくラッキーなことに、僕は(2025年の)2月までダンスを踊っていたので、5年前にミュージカルに出演したときより、相当、レベルが上がっていると思います。 … 続きを読む

【物語りの遺伝子 “忍者”を広めた講談・玉田家ストーリー】(10)石浦神社で語る「八田與一と嘉義農林学校」

舞台・ミュージカル2026年1月16日

 YouTubeもNetflixもない時代、人々を夢中にさせた“物語り”の芸があった——。“たまたま”講談界に入った四代目・玉田玉秀斎(たまだ・ぎょくしゅうさい)が、知られざる一門の歴史物語をたどります。  語りは、土地と人を結び直します。 … 続きを読む

「豊臣兄弟!」第2回「願いの鐘」豊臣兄弟の家族から直、寧々、市まで、女性キャラの活躍に期待【大河ドラマコラム】

ドラマ2026年1月15日

 NHKで好評放送中の大河ドラマ「豊臣兄弟!」。戦国時代、主人公・豊臣秀長(=小一郎/仲野太賀)が、兄・秀吉(=藤吉郎/池松壮亮)と共に天下統一を成し遂げるまでの奇跡を描く物語だ。1月11日に放送された第2回「願いの鐘」では、一度は故郷の村 … 続きを読む

Willfriends

page top