草笛光子「老女がはちゃめちゃな、摩訶不思議な映画ですから覚悟してご覧ください(笑)」『アンジーのBARで逢いましょう』【インタビュー】

2025年4月3日 / 08:00

-松本動監督の演出について、また寺尾聰さんら共演者の印象をお願いします。

 松本監督とは初めてでしたが、私の問い掛けにも親切に細かく答えてくれました。とにかく自由にやらせてもらいました。寺尾聰さんは、昭和49年のドラマ「天下のおやじ」で寺尾さんと水谷豊さんが私の息子役だったんです。それからこの2人は何かあると駆け付けてくれる芸能界の親戚。まだ、あの大ヒット曲「ルビーの指環」が生まれる前の頃、毎日ギターを抱えて私の家に来ては一晩中弾いていて、私が仕事に行くときは「いってらっしゃい」と見送ってくれて、帰ってきたら「おかえりなさい」って言うのよ。わが家の家政婦さんがご飯も出してくれていたし、居心地がよかったのかしら。ある時、お父さまの宇野重吉さんが電話をくださって、「草笛さん、うちの息子が毎日朝昼晩とごちそうになってすみません」って。そのうち、「これ聞いて」と言って、出来上がった曲を何曲かテープに入れて聞かせてくれました。共演するのはいつ以来なのか分からないけれど、知っている顔がいてくれるだけでうれしかったです。

-外国映画では、例えば『ドライビング Miss デイジー』(89)のような、高齢者が主人公の映画もありますが日本では珍しいです。このことについてどう思いますか。

 若い頃に見たブロードウェーのミュージカルで、80代ぐらいの俳優が音程やリズムそっちのけで舞台の上で歌って踊っていて、観客もその俳優に大歓声を浴びせていたのを目の当たりにして、「すてきだな、自分もああなりたいな」と思ったんです。日本にはそういう光景がないでしょ。ヨロヨロと踊って、せりふも「あっ、間違えたからもう1回」なんて言ってもいい、そんなふうに年相応で演じる女優がいたっていいじゃない? そういうのがやってみたいと思っています。今回『九十歳。何がめでたい』で、日刊スポーツ映画大賞で主演女優賞、日本アカデミー賞で優秀主演賞を頂けたから、これからが面白いですよね。私は、新宿コマ劇場、芸術座、建て替え後の帝国劇場のこけら落とし公演に出演して“こけら落とし女優”と言われていたの。テレビ番組でもお試し番組を任されたり、最初の一歩をやらされることが本当に多かったから、『九十歳。何がめでたい』とこの映画が、高齢者主演作がメジャーになる最初の一歩になれたらいいなと思います。

-草笛さんの長いキャリアの中でのこの映画はどういうものになったでしょうか。

 不思議な映画でした。等身大とまでは言いませんが、肩に力が入らないで、自然に柔らかく演じることができたのも珍しいです。

-完成作を見た感想をお願いします。

 「これ、日本の映画?」って感じの不思議な映画でした。多才な俳優さんがたくさん出演してくださっていて、それぞれ個性が強くて実にユニーク。アンジーのように自由に強く生きてみたい、ご覧になった方がそう思ってくださったらうれしいです。

-最後に、映画の見どころも含めて観客や読者に向けてメッセージをお願いします。

 老女がはちゃめちゃな、摩訶不思議な映画ですから覚悟してご覧ください(笑)。自由なアンジーを私も自由に演じましたので、よろしければ劇場でご覧ください。

(取材・文/田中雄二)

(C)2025「アンジーのBARで逢いましょう」製作委員会

  • 1
  • 2
 

特集・インタビューFEATURE & INTERVIEW

草なぎ剛「やっぱりすごい…。心からリスペクトしています」 風吹ジュン「学ぶことも多く、新しい意識が生まれるドラマ」「終幕のロンド」【対談インタビュー】

ドラマ2025年10月27日

-お二人は、娘の真琴(中村ゆり)に余命を伝えないと決めたこはるの生き方に共感できますか。 風吹 こはるは愛に生きる人なので、会えばけんかばかりしてしまう娘でも、そこには母親としての愛情しかなくて、それが彼女の決意、引いては“死にざま”につな … 続きを読む

沢村一樹「勝負は“確認作業”」 孤高の馬主が見つめる“真の競馬”とは 「ザ・ロイヤルファミリー」【インタビュー】

ドラマ2025年10月27日

-感情を表に出さない冷静な椎名を、どのように意識して演技に臨んでいますか。  椎名にとって、レースは「確認作業」なんです。それが正しかったか、正しくなかったか。もし勝ったら「これが正しかったんだ」という確認ができて、逆に負けたら「何を変えた … 続きを読む

長尾謙杜&山田杏奈&石原慎也(Saucy Dog)が話題の映画でタッグ!「主題歌が主人公たちの気持ちを表している」『恋に至る病』【インタビュー】

映画2025年10月24日

-そうやってお2人が繰り広げる物語がドラマチックな分、エンディングに流れる「奇跡を待ってたって」が心に染み入ってきます。 石原 映画の内容をきちんと踏まえた曲にしたかったので、エンディングが始まって何秒で風景が変わり…といったことを細かく計 … 続きを読む

市毛良枝「現代の家族のいろんな姿を見ていただけると思うし、その中で少しでもホッとしていただけたらいいなと思います」『富士山と、コーヒーと、しあわせの数式』【インタビュー】

映画2025年10月23日

-文子が生涯学習の講座に行きますが、生涯学習についてはどう思いますか。  実は、以前、静岡県の生涯学習の委員をやっていました。それから最初に出した『山なんて嫌いだった』という本の後書きに「いつか少し時間ができたら大学に行って勉強してみたい」 … 続きを読む

林裕太「北村匠海さんや綾野剛さんとのつながりを感じました」期待の若手俳優が先輩2人と作り上げた迫真のサスペンス『愚か者の身分』【インタビュー】

映画2025年10月22日

-その場でとっさに反応したように見える迫真のお芝居でした。では、マモルにとってもう一つ大事な要素である北村さん演じるタクヤとのバディ感は、どのように作っていったのでしょうか。  北村さんと一緒に現場で作っていった感じです。僕が最初、緊張して … 続きを読む

Willfriends

page top