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映画を撮りながら、キングズリーが演じていることを忘れて、「ボブ・マーリーだ!」という瞬間が何度もあったぐらい、本当にどっぷりと成り切っていたと思いますし、素晴らしかったです。それは彼の努力のたまものでもあるのですが、彼はもう徹底的に全身全霊で役にのめり込むタイプなので、それを全面的にサポートしてくれた彼の家族にも報いなければならないし、ジャマイカという国や文化に対しても報いなければならない。そんな敬意を持ってこの役に挑んだことも大きかったと思います。
やっぱりそうした人種の問題は複雑で、場合によっては反感を買ったり、観客が嫌な気持ちになったりすることもありますが、ボブという人間を語る上で、そこは欠かせない部分です。特に、私はこの映画の中で、白人の父親に捨てられた少年が、焼け野原から逃げるシーンをイメージとして表現しました。そもそもボブは、ジャマイカに植民していた60歳近い英国軍人と、まだ18歳だった現地の娘との間に生まれた子どもです。だから本人も、そうした負い目みたいなのをすごく感じていた。ただ、逆に混血だったおかげで、真っ黒な顔ではないから、他のレゲエミュージシャンに比べれば、商業的なヒットを世界中で幅広く得られた。けれども自分では罪悪感みたいなものも抱えていた。そうした複雑な背景を盛り込みたいというのはありました。
「リデンプション・ソング」です。ボブの最後の、本当に究極の一曲だと思います。
皆さんは気付いていないかもしれませんが、例えば、マーティン・スコセッシやスパイク・リーは、「これは実話に基づく伝記です」とは言いませんが、実は彼らが手掛けている物のほとんどは実話がベースです。だから、ある意味、彼らはずっと伝記映画を作り続けているのだと私は思っています。ただ私は、次も伝記物で行こうと決めているわけではないですし、チャンスがあるなら、コメディーからホラー、ありとあらゆるジャンルに挑戦してみたいと思います。自分にとっての理想的なキャリアは、スタンリー・キューブリックみたいに、すごく壮大な戦争映画から心理サスペンスに行って、次はSFに行くみたいになれたらうれしいです。ちょっと老けて見えるかもしれませんが、意外とまだ若いので(笑)、可能性はあると思っています。
もちろん監督としては、自分が作った新しい作品を皆さんにお目にかけて、気に入ってもらえればいいというのが正直な気持ちです。ジャマイカの文化や歴史、ボブ・マーリーの人物像をなるべく忠実に正確に描くということで、ディテールまで徹底的にこだわったので、そうした点にも注目していただきたいです。あとは、何より彼の歌、そして歌に込められたメッセージと愛を感じてほしいと思います。それが彼の歌や音楽についてのより深い理解につながって、もっと聴きたくなったり、もっと彼のことが好きになったりしてくれる人が増えて、彼の音楽の軸になっているポジティブなメッセージを、次の世代、新しい世代の人がどんどん発見して、それをつないでいってくれれば、それ以上にうれしいことはないと思います。
(取材・文・写真/田中雄二)
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