「ボブの歌に込められたメッセージと愛を感じてほしいと思います」『ボブ・マーリー:ONE LOVE』レイナルド・マーカス・グリーン監督【インタビュー】

2024年5月21日 / 12:00

-今回ボブ・マーリーを演じたキングズリー・ベン=アディルがすごかったんですけれど、演出しながら、ボブが乗り移ったように感じた瞬間もあったのでは?

 映画を撮りながら、キングズリーが演じていることを忘れて、「ボブ・マーリーだ!」という瞬間が何度もあったぐらい、本当にどっぷりと成り切っていたと思いますし、素晴らしかったです。それは彼の努力のたまものでもあるのですが、彼はもう徹底的に全身全霊で役にのめり込むタイプなので、それを全面的にサポートしてくれた彼の家族にも報いなければならないし、ジャマイカという国や文化に対しても報いなければならない。そんな敬意を持ってこの役に挑んだことも大きかったと思います。

-白人と黒人のハーフだったというボブの出自もそうですが、彼を描く上で、特に気を付けたことはありますか。

 やっぱりそうした人種の問題は複雑で、場合によっては反感を買ったり、観客が嫌な気持ちになったりすることもありますが、ボブという人間を語る上で、そこは欠かせない部分です。特に、私はこの映画の中で、白人の父親に捨てられた少年が、焼け野原から逃げるシーンをイメージとして表現しました。そもそもボブは、ジャマイカに植民していた60歳近い英国軍人と、まだ18歳だった現地の娘との間に生まれた子どもです。だから本人も、そうした負い目みたいなのをすごく感じていた。ただ、逆に混血だったおかげで、真っ黒な顔ではないから、他のレゲエミュージシャンに比べれば、商業的なヒットを世界中で幅広く得られた。けれども自分では罪悪感みたいなものも抱えていた。そうした複雑な背景を盛り込みたいというのはありました。

-監督が特に好きなボブ・マーリーの曲は?

 「リデンプション・ソング」です。ボブの最後の、本当に究極の一曲だと思います。

-実話の映画が続いていますが、次回はフィクションを、という考えはありますか。

 皆さんは気付いていないかもしれませんが、例えば、マーティン・スコセッシやスパイク・リーは、「これは実話に基づく伝記です」とは言いませんが、実は彼らが手掛けている物のほとんどは実話がベースです。だから、ある意味、彼らはずっと伝記映画を作り続けているのだと私は思っています。ただ私は、次も伝記物で行こうと決めているわけではないですし、チャンスがあるなら、コメディーからホラー、ありとあらゆるジャンルに挑戦してみたいと思います。自分にとっての理想的なキャリアは、スタンリー・キューブリックみたいに、すごく壮大な戦争映画から心理サスペンスに行って、次はSFに行くみたいになれたらうれしいです。ちょっと老けて見えるかもしれませんが、意外とまだ若いので(笑)、可能性はあると思っています。

-最後に、日本の観客に向けて一言お願いします。

 もちろん監督としては、自分が作った新しい作品を皆さんにお目にかけて、気に入ってもらえればいいというのが正直な気持ちです。ジャマイカの文化や歴史、ボブ・マーリーの人物像をなるべく忠実に正確に描くということで、ディテールまで徹底的にこだわったので、そうした点にも注目していただきたいです。あとは、何より彼の歌、そして歌に込められたメッセージと愛を感じてほしいと思います。それが彼の歌や音楽についてのより深い理解につながって、もっと聴きたくなったり、もっと彼のことが好きになったりしてくれる人が増えて、彼の音楽の軸になっているポジティブなメッセージを、次の世代、新しい世代の人がどんどん発見して、それをつないでいってくれれば、それ以上にうれしいことはないと思います。

(取材・文・写真/田中雄二)

(C)2024 PARAMOUNT PICTURES

  • 1
  • 2
 

特集・インタビューFEATURE & INTERVIEW

「光る君へ」第三十三回「式部誕生」人々を動かす「源氏物語」の存在【大河ドラマコラム】

ドラマ2024年9月7日

 NHKで好評放送中の大河ドラマ「光る君へ」。9月1日に放送された第三十三回「式部誕生」では、「源氏物語」の続きを執筆するため、内裏に出仕した主人公・まひろ(吉高由里子)の日常と、中宮・彰子(見上愛)との出会いが描かれた。  彰子の住まいで … 続きを読む

山口紗弥加「自分が役に乗っ取られたような感覚です」ネタバレ厳禁のミステリーで入魂の演技を披露「私の死体を探してください。」【インタビュー】

ドラマ2024年9月6日

-そういう意味では、麻美の夫・正隆を演じる伊藤さんのお芝居に助けられた部分も?  もちろん! 伊藤さんのお芝居には本当に助けられました。正隆は最低のクズ男なんですけど、人間力の高い伊藤さんが演じているだけあって、一周回っていとおしくなる瞬間 … 続きを読む

河合優実「すごいところに羽ばたいていく予感はありました」金子大地「面白い映画になるのは間違いないと」恋人役で共演の2人が語るカンヌ受賞作の舞台裏『ナミビアの砂漠』【インタビュー】

映画2024年9月6日

-恋人でありながら緊張感のあるカナとハヤシの関係は、そういう山中監督の演出が生んだものかもしれませんね。現場の様子はいかがでしたか。 河合 ワンシーン、ワンシーン、みんなが面白がりながら撮っていました。「このシーン最高!」みたいな空気が毎日 … 続きを読む

【週末映画コラム】『エイリアン』の“その後”を描いた『エイリアン:ロムルス』/各国の映画祭で注目を集めた心理ホラー『映画検閲』

映画2024年9月6日

『映画検閲』(9月6日公開)  1980年代、サッチャー政権下のイギリス。「ビデオ・ナスティ」と呼ばれた暴力シーンや性描写を売りにした過激な映画の事前検閲を行うイーニッド(ニアフ・アルガー)は、容赦のない冷徹な審査故に「リトル・ミス・パーフ … 続きを読む

紅ゆずるの“ゼロ地点”は「宝塚歌劇団の公演を初めてテレビで見た日」【インタビュー】

舞台・ミュージカル2024年9月3日

-ネヴィルと現在の妻のケイ、そして元妻のオードリーが1カ所に集うという状況もまた複雑ですね。  物語の始めはネヴィルとケイとオードリーという三角関係があり、その女性の間で揺れ動く男性のよくある話かなと思ったのですが、進んでいくと全く違う。最 … 続きを読む

Willfriends

page top