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尾上松也、「重くなった責任も楽しむ気持ちを忘れない」ことがモチベーション維持に 新作歌舞伎「流白浪燦星」では石川五右衛門役【インタビュー】

 モンキー・パンチによる国民的人気漫画『ルパン三世』を原作とした新作歌舞伎「流白浪燦星」が上演中だ。オリジナルストーリーとなる本作は、石川五右衛門が実在した安土桃山時代に時代を設定し、歌舞伎ならではの演出や技法によりルパンたちの活躍をダイナミックに描く。主人公の大泥棒・流白浪燦星を演じるのは片岡愛之助だ。石川五右衛門を演じる尾上松也に、本作の見どころや五右衛門役について聞いた。

尾上松也 (C)エンタメOVO

ー松也さんは、「ルパン三世」に対してどんな思いがありますか。

 子どもの頃からアニメが放送されていましたので、自然と知っていたという作品ですが、それを歌舞伎化すると伺って、驚きましたし、どうなるのだろうと想像ができなかった。そこに今回の歌舞伎化の魅力を感じました。

ー今回は、そんな作品の中でも人気の高い石川五エ門を演じますが、五エ門というキャラクターについてはどんな印象を持っていましたか。

 クールで、あまり多くを語らない、刀に生きる男というイメージでした。

ー今作もそのイメージ通りの役作りをしているのですか。

 基本的にはそうです。いわゆる「陽」の要素はルパンに任せようと思っています。

ー新作歌舞伎では、漫画やゲームを原作した作品も増えてきていますが、どのくらい原作を意識して演じているのですか。

 演者にもよると思いますが、僕は、自分が一ファンだと考えて演じるので、全く違うものにはしません。やはり原作があって、それを基盤にして作る作品ですし、特にこれだけ有名なアニメーションがあるものでしたら、それを意識した作品にしたいという思いはあります。

ー今回は、どんなところにポイントを置いて演じたいと考えていますか。

 今、お話ししました通り、まずは原作重視というのが一番です。歌舞伎に落とし込もうとすれば、五エ門はどうにでもできるキャラクターだと思います。ですが、そこに突き進んでしまうと、モンキー・パンチさんの「ルパン三世」の五エ門である必要性がなくなってしまう。逆にいうと、アニメーションの石川五エ門がいると感じられる「融合性」がこの作品をやる意味だと思うので、そこは演じる上でも大事にするべきだと考えています。

ービジュアルが公開された際も大きな話題を呼びましたが、五エ門を意識して撮影したのですか。

 刀の持ち方や型はイメージしました。あとは、顔の作りもなるべく原作に近づけようとは思ったのですが、(他のキャストの)皆さんのクオリティーが高いので(笑)。皆さん、ワクワクするようなビジュアルをお作りになっていると、僕自身も見ていて楽しみに思いましたし、(市川)中車さん(演じる銭形警部)の下まつげはすばらしいですよね。原作を意識していて。そう考えると、僕が一番、原作からは遠いのかなとは思います。

ー松也さんご自身は、どのキャラクターに一番にていると思いますか。

 それは確実に五エ門です。僕は根暗なので、暗いところは共通点だと思います(笑)。でも同時に、ルパンの要素もあります。ビジネス・スイッチが入ると、ルパンになります。次元と銭形はないですね。峰不二子はもちろんない。

ー暗いですか。

 しゃべらないですよ、普段(笑)。何かやらなくてはとなるとルパンになりますが。

ーそうすると、今回はハマり役でもある?

 自分がそういうタイプだからどうなんだろうというところはあるので分かりませんが、そう思っていただけるように頑張ろうと思っています。

ー歌舞伎の古典作品と今作のような新作歌舞伎では、演じるにあたっての違いはありますか。

 根本的なところは同じだと思いますが、特に原作がある作品はファンの方のイメージと自分自身がやりたいことというのをどう作り上げるかがベースになってくるという違いはあります。

ーでは、本作が1つのお宝を巡る争いを描く物語にちなんで、松也さんにとっての「お宝・宝物」を教えてください。

 なんでしょうね(笑)。何につけても好奇心があることが大事だと思っていますので、好奇心ですね。仕事だけでなく、プライベートでも何にでも興味を持つこと。好奇心があることがモチベーションにもつながると思います。

ー最近、大きく好奇心が動いたものは?

 自主公演を企画したり、演出したり、自分で色々と考えるということですね。もちろん、いただいたお仕事も大事なのですが、それとはまた別に自分で考えたことに賛同してもらうというのはすごく面白い。今年、そうした公演をやらせていただいたことで、より一層、やってみたいことが増えました。

ー新しいことも多かった2023年だと思いますが、改めて、松也さんにとって2023年はどんな1年でしたか。

 今年は新作ばかりでした。そういう意味では、新しい世界を見せていただいた1年だったのかなという気がします。昨年は、舞台にあまり出られませんでしたので、今年は舞台の年にしたいと思っていたんですよ。ですので予定通りではありますが、やはり自分は舞台が好きで、歌舞伎をやっていてよかったと思いましたし、舞台は楽しいと改めて感じました。

ー2024年はどんな年にしたいですか。

 例年と変わりなく過ごすというのがまず大事かなと。そのためにも変わらないモチベーションで臨めたらと思います。

ーモチベーションを保つ秘訣(ひけつ)はあるのですか。

 年齢を重ねたことで、若い頃と仕事への向き合い方も変わってきて、より一層、責任が重くなっていますが、重くなった責任も楽しむ気持ちを忘れないことです。若い頃はそこで結果を出すことに必死でしたが、それとはまた違った角度で楽しむ。それをどの仕事においても見つけていかれたら、高いモチベーションでいられるのではないかなと思います。ありがたいことに僕は今、たくさんのお仕事をいただけているので、本当に感謝しかないです。

ーなるほど。では、そうした日々の中で、松也さんにとっての息抜きは?

 仲間と過ごすこと。それから、自宅で映画をみたり、趣味であるスニーカー集めに没頭している時です。

ー最後に、公演を楽しみにされている方にメッセージを。

 多くの日本国民に愛されてきた作品を歌舞伎化できるというのは、とても光栄なことだと感じています。今回、僕は、そうした作品の中でも有名な石川五エ門を務めさせていただきます。とても名誉なことですので、ファンの皆さまの期待以上のものをお見せできるようにみんなでいいものを作り上げたいと思っています。

(取材・文・写真:嶋田真己)

新作歌舞伎「流白浪燦星」は、12月25日まで都内・新橋演舞場で上演。

新作歌舞伎「流白浪燦星」

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