俳優の柴田恭兵が平成26年NHK大河ドラマ「軍師官兵衛」に、黒田官兵衛の父・職隆役で出演する。柴田の大河ドラマ出演は「武田信玄」(1988年放送)以来。物語は智力をもって戦い、生涯五十幾度の合戦で一度も負けなかった黒田官兵衛の生涯を描く。職隆は主演・岡田准一演じる官兵衛の父親で、播磨国姫路城主にして小寺家筆頭家老という役どころ。第1回放送から登場する。
8月27日にスタジオでクランクインし、岩手県での合戦シーンなどのロケを経て再びスタジオでの撮影に臨む柴田に、息子・岡田との共演の印象、職隆への思いや自身の俳優としての心境の変化を語ってもらった。
――久しぶりの大河ドラマに帰ってきた感触はいかがですか?
時代劇はどちらかというと、苦手。でも、お話を頂いて、大河ですからその重み、迫力、丁寧さといった手応えのある作品に参加したいなと思いました。久しぶりの時代劇も楽しいかなと思いまして。撮影が始まってだいぶたちますが、この年になってやっと時代劇は面白いと感じています。
台本がめりはりが利いて分かりやすく、テンポがある。お芝居の仕方にも幅があるのだと感じています。若い時には分かりませんでしたが、若い役者さんと共演していると、昔の自分もきっとこんなふうだったんだろうな、と思うことがあります。時代劇のせりふ回しや所作は難しい。一生懸命“時代劇”をやっているけど“時代劇”っぽくないときもあったり。だからこそ、演じていて面白いです。
――黒田職隆という人物についての印象を教えてください。
スケールの大きい人だったんじゃないかなと思います。とても懐が深く、すてきな人だったと思います。“目薬屋”で、時代を読む力もあったし、現代で言えば“町工場の社長”だったのかもしれません。大企業に飲み込まれるか、なんとか独立して頑張った方がいいのか、そこを読み違えるとあっという間に殺されてしまう時代のような気がしますが、職隆は社員や家族のことを大事に思い、常に会社の行く末を考えていた人だったと思います。
――主人公・黒田官兵衛という人物の魅力はどこですか?
今回は、あえて史実の本はまったく読まず、台本だけですが、いかにあの時代は軍師が大切だったかということが分かります。その意味では官兵衛はとても有能なコンピューターのような役割だったと思います。
――では、ドラマで岡田さんが演じる“岡田官兵衛”の魅力は?
岡田君はとてもみずみずしい官兵衛で、セクシーですがすがしくて美しい。それはとても大事なこと。美しいものは許される。笑顔もつらい顔も美しいし、彼はとてもすてきです。演技も美しい。容姿が美しいのはもちろん、リアクションの心が美しい。やっていて心を打たれます。そのシーンのテンションの持ち方の大事さ、どうしたら面白くなるのか、そのシーンで一番伝えたいニュアンスを大事に考えている。パッションが彼の中にきっちりあるから、そういう人とやっているお芝居は楽しいですね。
――台本を超えるお芝居が生まれる瞬間が多くあるということですか?
演出の方が3人いて、最初の岩手のロケの時に彼らと役者で撮影が終わった後に何回かお酒を飲みました。そういう時間を取れたことがとても大事だと思います。「こうしたらいいんじゃないか」と誰かが現場で感じたことに耳を傾けて、前向きに進んでいく。スタートからそういう現場でしたので、明るくて面白いです。
――久しぶりの時代劇ですが、演じていて難しいと感じた部分はありますか?
馬に乗っての立ち回りが多く、何十年ぶりで不安でした。黒田家の重鎮が周りにいて、平均年齢が60歳ぐらいなので自分も含めて大丈夫かなと思っていました。でも皆さんベテランですから、顔で芝居をされるんです(笑い)。だんだんノってきて、監督に“もっと撮ってほしい”と言ったり。
――柴田さん自身、内面で演じる難しさというものは?
若いころは、カットがかかった後も必ずもう一回やらせてほしいと思っていました。もう少し違う芝居もあるんじゃないかと僕は思っていたんですね。それが、「ハゲタカ」というNHKのドラマの最中に、手術をして帰ってきてからでしょうか。どんな芝居でも“柴田恭兵”で、それ以上でも以下でもないんだなと思うようになりました。それからは一度に出し切って臨んでいます。悔いのないように、後悔のないように。先もあまり長くないかなというのと、すてきな作品を悔いのないようにやろうという思いがありますから、難しいとはあまり思わないです。楽しいですね。
――合戦シーンが見どころではあると思いますが、その中でも、これだという見どころを教えてください。
馬を見てほしい。僕の乗る馬は決まっていて、僕が乗ると“あ、僕だ”と分かるんです。彼は、そろそろ本番だなと分かる。重さで、“来たな”と分かって、「よーい」と声が掛かると馬の耳がピンと立つ。馬も雑兵も本気です。本当に全員が一生懸命やっているので、隅から隅まで見てほしいです。