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「らんまん」制作統括が語る後半戦の見どころ  「万太郎の苦難から、再生の物語へ」 松川博敬氏【インタビュー】

(C)NHK

 NHKで好評放送中の連続テレビ小説「らんまん」。“日本の植物分類学の父”牧野富太郎博士をモデルに、愛する植物のため、明治から昭和へと激動の時代をいちずに突き進む主人公・槙野万太郎(神木隆之介)の波瀾(はらん)万丈な生涯を描く物語だ。このところ、新種の植物を発見して世界的に名を挙げ、愛妻・寿恵子(浜辺美波)との間に子どもも生まれるなど、万太郎は絶好調だが、後半戦を迎えた物語はどうなっていくのか。制作統括を務める松川博敬氏に、今後の見どころを聞いた。

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-物語は後半戦に入りましたが、現在の撮影の手応えはいかがですか。

 第1週から第5週までの高知編は、ロケシーンも多く、時間もぜいたくに使って撮影していましたが、今はロケもほとんどなく、限られたセットの中だけで撮影を進めています。場合によっては、長屋の中だけ、東大植物学研究室の1室だけ、という制限された場所で物語を展開しなければいけません。にもかかわらず、役者さんの演技と演出が見事に呼応し、序盤と比べても遜色ない出来になっているのは、うれしい誤算です。

-今後の物語はどうなっていくのでしょうか。

 第14週から第17週にかけては、万太郎くんが新種の植物を発見してどんどん業績を上げ、子どもも生まれて順風満帆に歩んでいく姿が描かれます。ただその一方で、成果を出せずにいる田邊教授(要潤)との溝が深まっていきます。最終的に田邊教授から東大への出入りを禁じられ、そこから万太郎くんの苦難が始まります。容赦なく深い悲しみが描かれていきますが、役者の皆さんも演出陣も覚悟を持って取り組んでいるので、前半とはまた一味違った深みのある人間ドラマが繰り広げられます。

-綾(佐久間由衣)と竹雄(志尊淳)が継いだ万太郎の実家の酒蔵・峰屋の行方も気になります。

 峰屋も、牧野富太郎さんの史実通り、店を畳むことになり、綾と竹雄がその悲しみを乗り越えていくドラマが描かれます。万太郎と寿恵子、綾と竹雄、二組の夫婦のどん底が重なり、「らんまん」の中では一番しんどいところになりますが、その後、再生の物語に向かっていくことになります。

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-実際の牧野富太郎さんは莫大(ばくだい)な借金を抱えていたようですが、そのあたりは今後、どのように描かれていくのでしょうか。

 モデルの富太郎さんと万太郎くんのキャラクターの違いは、当初から意識しながら人物造形してきました。その中で、われわれの万太郎くんは、周りの迷惑をかえりみず莫大な借金をするような人ではないと考えています。もちろん、どうしてもというときには借金をすることになりますが、その借金を寿恵子さんが返すという描き方は、下手をすると妻が夫の犠牲になる印象を与えかねません。お金を工面するため、富太郎さんの妻・壽衛さんが色々と知恵を絞ったのは事実ですが、われわれの寿恵子さんは「借金を返す」というより、一緒に夢をかなえるために「投資をする」という感じで、前向きな描き方をしていくつもりです。

-出会った当初は万太郎に好意的だった田邊教授が、このところ悪役のようになってきました。その狙いを教えて下さい。

 田邊教授には実在のモデルがいます。牧野富太郎さんの伝記などでは、最初はかわいがっていたのに、あるとき突然、クビにされた権威主義の教授、みたいな感じで悪役扱いされていますが、実際は違うらしいんです。人によっては、富太郎さんがやりたい放題で、むしろ教授の方がまともだった、と証言する方もいるくらいで。人間は一色ではなく、いろんな面があります。われわれも田邊さんのキャラクターは大事にしているので、今後、彼には彼なりの事情があったことも描かれ、汚名返上の機会も用意されています。ただの悪役では終わらない、奥深い人間模様が展開していくので、ぜひ期待してください。

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-田邊教授のほかにも、万太郎と寿恵子の周りの人物を丁寧に描いていることが「らんまん」の魅力のひとつですが、その点に関して、脚本家の長田育恵さんとどんなやり取りがあったのでしょうか。

 企画の段階で、どんな作品にするか話し合った際、長田さんが「万太郎という『広場』に集まった人たちを描きたい」というようなことをおっしゃっていたんです。そこで、それぞれいろんな事情を抱えながら、広場に集まってきた人たちが、その真ん中にいる太陽のような存在の万太郎に影響されて変わっていく。そういうドラマが生まれていきました。

-それを実現するため、松川さんが心掛けていることは?

 基本的には長田さんの脚本の上手さだと思いますが、そこに対してわれわれが何かお手伝いできているとしたら、キャスティングの部分ではないでしょうか。実際にスタジオで役者さんが演じている様子や完成した映像を見て、長田さんが刺激を受け、キャラがどんどん成長していく…。そういうことはあったかもしれません。キャスティングに関しては、僕だけでなく、ほかのプロデューサーやディレクターも含めてみんなで案を出し合い、決めているので、みんなの頑張りが認められたのだとしたら、うれしいですね。

-第15週では万太郎と一緒に新種を発見する大窪さん(今野浩喜)のドラマがありましたが、普通ならただの同僚で終わってもおかしくない波多野(前原滉)や藤丸(前原瑞樹)といった万太郎の仲間も魅力的に描かれていますね。

 大窪、波多野、藤丸については、モデルになった方の史実があるので、ある程度描かれるとは思っていましたが、想像以上にキャラが膨らんできましたね。一方、史実にない長屋の面々については、時代考証も踏まえて、彰義隊崩れの倉木さん(大東駿介)や作家志望の丈之助くん(山脇辰哉)など、「こんな人がいたら面白いよね」と長田さんと話し合いながら作っていきました。長屋の皆さんもそれぞれ見せ場があってキャラが立っているので、期待以上に育っているのもうれしい限りです。おかげで当初、万太郎くんは結婚したら長屋を出ていくと思っていましたが、予想以上に長くいることになりました。

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-今後、クライマックスに向けて注目の登場人物を教えてください。

 これからもさまざまな人物が物語を彩ってくれますが、万太郎くんに最も近い人物としては、山元虎鉄という少年が登場します。少年時代を演じるのは寺田心くんで、彼は高知で万太郎くんのヤッコソウの発見を手伝った際、その学名に自分の名前が入ったことに感動し、10年後に上京して万太郎くんの助手として長屋で暮らし始めます。第2週で池田蘭光(寺脇康文)先生と少年時代の万太郎くんが関係を築いたように、今度は万太郎くんが先生となり、植物学を志す後進の虎鉄くんと交流するようになります。それをきっかけに、東大というアカデミズムの表舞台から降りた万太郎くんが、全国の植物愛好家のネットワークを築き、植物図鑑を完成させるという新たなフェーズに入っていきます。

-最後に、視聴者に向けてのメッセージをお願いします。

 これまでのところ、皆さんから予想を超える高評価を頂き、本当に幸せな作品になりました。私も毎回、わくわくしながら見ていますが、後半戦も期待を裏切らない見応えのあるドラマが出来上がってきています。引き続き、応援よろしくお願いします。

(取材・文/井上健一)

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