【インタビュー】映画『天才ヴァイオリニストと消えた旋律』フランソワ・ジラール監督 「この映画の価値は、過去に起きた出来事を改めて思い出すきっかけになること」

2021年11月30日 / 07:13

 第2次世界大戦前夜のロンドン。9歳のマーティンが暮らすシモンズ家に、類いまれなバイオリンの才能を持ったユダヤ系ポーランド人のドヴィドルが引き取られる。同い年の2人は兄弟のように親しくなって成長するが、デビューコンサートの日に、ドヴィドルが突然姿を消す。35年後、マーティン(ティム・ロス)は、ドヴィドルの行方を追う手掛かりを得て、彼を探す旅に出る。バイオリニストをモチーフにした音楽ミステリー『天才ヴァイオリニストと消えた旋律』が、12月3日から公開される。本作を監督した、カナダ出身のフランソワ・ジラールに、映画への思いを聞いた。

フランソワ・ジラール監督

-映画化の経緯を教えてください。

 まず、この映画のプロデューサーのロバート・ラントスから脚本が送られてきました。素晴らしい脚本だと思いましたが、最初は監督をすることを断りました。なぜかというと、私のところに話が来たのは、私の過去の作品から、バイオリンや音楽や時代物というふうに連想されたのかなと思ったからです。なので、自分のキャリアとして、同じような作品を作るのは、どうも気が進まないと思いました。でも、すぐにそれは利己的な考えだと気付いて、脚本と原作を読みました。今は忘れかけられている第2次大戦中の悲劇について書かれたもので、当時起こったことの記録に、自分なりの貢献をしなければと思い直して、引き受けることにしました。

-過去の監督作の、一丁のバイオリンの数奇な運命を描いた『レッド・バイオリン』(98)や、音楽と少年をテーマにした『ボーイ・ソプラノ ただひとつの歌声』(14)と、この映画との関連性について伺おうと思っていたのですが、そこはあまり触れてほしくない、ということですね(苦笑)。

 そうですね。例えば、『グレン・グールドをめぐる32章』(93)を作ったときに、伝記物や音楽物はしばらく避けた方がいいんじゃないかと思いました。でも、その後『レッド・バイオリン』のアイデアを得て、作ってしまいました(笑)。面白いのは、人の道のりというのは人それぞれで、それを見ることは興味深いです。ただ、自分に関していえば、キャリアに対して決していい選択をしていないのではないかと思います。でも、自分の努力や時間を費やしても、それをスクリーンに映す価値があると思ったら、それは自分がどう思うかではなく、作るべきだと考えています。

-この映画には音楽ミステリーの要素もあり、戦中と1956年と81年という三つの時代を交錯させながら描いていますが、その意図は?

 それを考えたのは私ではなく、ノーマン・レブレヒトの原作とジェフリー・ケインの脚本から得たものです。これまでの私の作品は、脚本も自分で書くことが多かったのですが、今回は他の人が書いたものを使うということで、全ての責任を負わなくてもよかったので(笑)、このポジションで作ることは楽しかったです。

-主人公のマーティンとドヴィドルには、少年期(ミシャ・ハンドリー、ルーク・ドイル)、青年期(ジェラン・ハウエル、ジョナ・ハウアー・キング)、中年期(テイム・ロス、クライブ・オーウェン)という6人のキャストがいたわけですが、それぞれのバランスや演技についてはどう考えたのでしょうか。

 そうなんです。6人だったんです!(笑)。私はシックステット(六重唱)と呼んでいましたが、これが今回の一番の難関になると思っていたので、半分以上の力はこの6人のことに注ぎ込みました。まずキャスティングです。テイムとクライブのほかの4人を探さなければならなかったのですが、この6人を、トリオが2組、ペアが2組というふうに考えると、縦横どちらで並べたときにも成立しなければならないわけです。

 それで、たくさんの若手俳優に会いましたが、ルックス以外にも、例えば、ポーランド、イギリス、ニューヨークと、なまりが変化していくので、言葉のアクセントも重要でした。また、ドヴィドルを演じる人にはバイオリンを弾くという要素もありました。少年期を演じた俳優以外は、バイオリンを触ったこともない2人だったので、それも大変でした。僕のキャリアの中では一番苦労したキャスティングでした。最後に編集をするときも、6人のバランスを考えながらしました。

-ドヴィドルを引き取りサポートするギルバードの存在がとても印象に残りました。この映画は実話ではありませんが、実際に当時のイギリスにはこういう人がいたのでしょうか。

 アーティストの保護者になる人や、子どもたちが音楽教育を得られるように、家に引き取って育てる人は、イギリスに限らず、いろいろな国にいたと思います。イギリスは、戦争を逃れたユダヤ人の子どもたちを一番救った国でもあります。当時は、そうしたシステムがあって、イギリスの家族が、一時的にでも養子縁組をして救ったケースもあったようです。ただ、私は、この映画の核心は、音楽の教育という部分ではなく、当時、ヨーロッパや日本でも感じられた第2次世界大戦の恐ろしさにあると思っています。

 
  • 1
  • 2

特集・インタビューFEATURE & INTERVIEW

松下由樹 長年の活躍を支えてきた信条は「自分だけでなく、共演者や周りの皆さんにとってもいい結果が得られるように」「ディアマイベイビー~私があなたを支配するまで~」【インタビュー】

ドラマ2025年6月6日

 毎週金曜深夜24時12分からテレ東系で放送中の「ディアマイベイビー~私があなたを支配するまで~」は、芸能界を舞台に、自らが発掘した新人俳優・森山拓人(野村康太)にのめり込んでいくベテランマネジャー、吉川恵子(松下由樹)の狂気的な愛を描いた … 続きを読む

【週末映画コラム】伝統について考えてみる 歌舞伎役者として芸道に人生をささげた男『国宝』/京都愛の強過ぎる女性が引き起こす大騒動『ぶぶ漬けどうどす』

映画2025年6月6日

『国宝』(6月6日公開)  九州の任侠の家に生まれた喜久雄(黒川想矢/吉沢亮)は、15歳の時に抗争で父を亡くし天涯孤独の身となるが、彼の天性の才能を見抜いた上方歌舞伎の名門の当主・花井半二郎(渡辺謙)が家に引き取る。  喜久雄は半二郎の跡取 … 続きを読む

深川麻衣「いまさら聞けない疑問を、まどかが突っ込んで聞いているので、それを楽しんでいただけたらうれしいです」『ぶぶ漬けどうどす』【インタビュー】

映画2025年6月5日

 古都・京都を舞台に、老舗扇子店の長男と結婚し、東京から引っ越してきたフリーライターの澁澤まどかが引き起こす大騒動を描いたシニカルコメディー『ぶぶ漬けどうどす』が6月6日から全国公開される。本作で京都を愛するあまり暴走してしまう主人公のまど … 続きを読む

フレッド・ヘッキンジャー「トム・クルーズがものすごいアクションをしてハラハラドキドキするようなことが、日々の生活の中にもあるかもしれない」『テルマがゆく! 93歳のやさしいリベンジ』【インタビュー】

映画2025年6月4日

 ジューン・スキッブが93歳で映画初主演を果たし、オレオレ詐欺師に立ち向かうテルマおばあちゃんの奮闘を描いたコメディー映画『テルマがゆく! 93歳のやさしいリベンジ』が、6月6日から全国公開される。本作でテルマと仲がいい孫のダニエルを演じた … 続きを読む

原菜乃華「キャッチコピーは『劇場型お化け屋敷』でお願いします」『見える子ちゃん』【インタビュー】

映画2025年6月4日

 突然霊が見えるようになった女子高生が、ひたすら霊を無視してやり過ごそうとする姿を描く、泉朝樹の青春ホラーコメディー漫画を実写映画化した『見える子ちゃん』が、6月6日から全国公開される。本作で主人公の四谷みこを演じた原菜乃華に話を聞いた。 … 続きを読む

Willfriends

page top