【インタビュー】映画『天才ヴァイオリニストと消えた旋律』フランソワ・ジラール監督 「この映画の価値は、過去に起きた出来事を改めて思い出すきっかけになること」

2021年11月30日 / 07:13

-この映画のタイトルでもある、ユダヤ人たちがホロコーストの犠牲者の名前を歌にして記憶するという「名前たちの歌=ザ・ソング・オブ・ネームズ」は実在するのでしょうか。

 ユダヤ教では、歌や暗唱を通して誰かのことを追悼したり、記憶にとどめたりすることは伝統的に行われています。ただ、この映画に出てくる歌は原作者が生み出したものでフィクションです。なので、曲としては実在しているわけではありませんが、ユダヤ人の伝統やユダヤ教の典礼を考えると、とてもそれに沿ったものになっていると思います。

-最後に、日本の観客に向けて、この映画の見どころをお願いします。

 それはあなたの仕事ですよ(笑)。この映画を作ることは自分にとってはとても重要なことでしたが、見ていただく人たちにとっても同じようなことがいえると思います。追悼するということ、そして記憶にとどめるということです。第2次世界大戦のことを、私たちはすでに忘れかけていますよね。生存者の方がどんどん亡くなっていき、戦争の経験を話してくださる方も少なくなってきています。

 そんな中、現代を生きる私たちは、集団的な記憶喪失になっているところがあると思います。スクリーンやスマホばかりを見ていて、現在に捉われ過ぎていて、過去の出来事を見ていません。過去を見ることができなければ、未来を見ることもできません。それは、過去の過ちが繰り返されてしまうことにもつながると思います。その過ちとは、第2次世界大戦やホロコーストであったりもするわけです。

 なので、この映画を見ていただく価値は、過去に起きた出来事を改めて思い出すきっかけになることだと自負しています。深い人間的な視点から描いていると思うので、そういうふうに見ていただけたらうれしいです。

(取材・文/田中雄二)

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