【インタビュー】舞台「ケムリ研究室no.2『砂の女』」仲村トオル コロナ禍で感じた芝居への思い「ありがたいことだと思い出させてもらった」

2021年7月19日 / 08:00

 劇作家・演出家のケラリーノ・サンドロヴィッチ(以下、KERA)と、女優の緒川たまきが結成した演劇ユニット「ケムリ研究室」の第2回公演「砂の女」が8月22日から上演される。本作は、安部公房の小説『砂の女』を原作に、KERAが上演台本と演出を担当する舞台。ある砂丘に閉じ込められた男を演じる仲村トオルに、作品の魅力や舞台に立つことへの思いなどを聞いた。

仲村トオル

 -「ケムリ研究室」の作品には、第1回公演の「ベイジルタウンの女神」に続いての出演となりますが、本作への出演が決まったときの心境は?

 演出のKERAさんからお話を頂いたときは、まだ原作も映画化された作品も見ていなかったので、『砂の女』に対する予備知識がない状態でした。ですが、KERAさんの演出で緒川さんとご一緒できるのは、面白いことになるだろうという予感がありました。

-その後に原作や映画を見て、どんな感想を抱きましたか。

 「男」を演じるという意識を持って原作を読んだ結果だとは思いますが、砂が自分の耳の穴に入ってくるような、目の縁にくっつくような、口の中にもじゃりじゃりと音を立てて混じっているような、そんなささやかな不快感とともに読み進めていきました。

-安部公房の作品は不条理に満ちた物語が多く、本作も例外ではないと思いますが、それを舞台化し、演じるのは非常に難しいのではないでしょうか。

 舞台上で表現するのは難しい作品だとは思いますが、原作を読み、KERAさんのお話を聞くと、本作に対して、僕は「不条理な物語」というイメージはそれほどないんです。虫を追い掛けて迷い込んだ村で、なぜか砂の谷底に住まわされている女の家に1泊だけ泊まっていこうと思った男が、逃げ出すことができずに、居続けてしまう。これは今までの人間関係や社会から切り離されたいという願望がある人間を描いているのではないかと思います。僕が演じるのは、“失踪願望がある男”で、閉鎖された空間に居続けることを選ぶことで、解放を求めたと考えると、不条理ともいえないのではないかな、と。きっかけは、確かに彼が望んだことではなかったかもしれませんが、自分が望む結末を迎えたんだと思います。ただ、稽古で、ユニット名よろしく研究を重ねるうちに、物語の印象や演じるときの思いは変わってくるかもしれませんが。

-演出のKERAさんの魅力をどこに感じていますか。

 自分が出演していない作品を客観的に見たときによく感じるのですが、「多くの才能を束ねる才能」が素晴らしいと思います。多くの要素を一つの作品にまとめるのは大変なことだと思いますから。それから、僕は、以前、先輩の俳優の方に「舞台に出演するということは、引き出しの中に新しい道具が入るということ。最初は初めて使った道具で慣れないかもしれないけれど、1カ月稽古をすると慣れてきて、千秋楽には自分のものになるよ」と教えていただいたことがあるのですが、それでいうと、KERAさんは見たこともない道具を渡してくださる方です。「使い方も分からない」というところから稽古がスタートして、最終的にそれが自分の引き出しの中に残る。とても珍しい道具を渡してくれるというのは、俳優としてありがたく感じています。

-仲村さんが感じる「舞台で演じる楽しさ」は、その「道具を手に入れる」というところにあるのでしょうか。

 もちろんそれもあります。それから、自分は視聴率や観客動員といった数字で評価されることの多い映像作品に多く出演してきて、それはそれでその厳しさが気持ち良かったりするのですが、その一方で、数字の向こうにいる方たちに直接会ってみたいという思いもありました。会って、作品を手渡ししたい。そうしたら、どんな顔をするんだろうという思いが募っていった結果、(舞台に)出てみたら、期待していた以上の感動があったんです。初舞台の初日のカーテンコールで拍手の音を聞いたときは、本当に泣きそうになりました。お客さんの拍手の音や空気感で、自分のせりふが、芝居が伝わったという感覚があるんです。それがきっと舞台の魅力なんじゃないかと思います。

-初舞台で感じた感動があったからこそ、舞台への思いがより強くなったんですね。

  初舞台のときには、もちろんプレッシャーもありました。それは、自分が通用するのかとか、喉や体や心が千秋楽まで持つのかなという、不安材料があったからだと思います。お客さんに受け入れられてない、伝わっていないと舞台上で感じてしまったら自分はへこたれないでできるだろうか、と。

-回数を重ねていくうちに、その不安がなくなっていったのですか。

 減ってはきましたけど、不安じゃないときはないですよ。それは舞台に限らず、ドラマや映画の撮影でも同じです。不安にならない自分を見付けたら、「何、余裕を持ってるんだよ」って不安になる(笑)。いつの間にか、常にそばに「不安」を置いているので、見慣れてきて気にはならない状態にはなっているような気はしますが、何か準備不足があるんじゃないかと、不安材料を自ら探しているようなところはあります。不安材料をしっかりと見つけて、それを解決したら、ようやく少し安心するということを繰り返している気がします。

 
  • 1
  • 2

関連ニュースRELATED NEWS

特集・インタビューFEATURE & INTERVIEW

生駒里奈が語る俳優業への思い 「自分ではない瞬間が多ければ多いほど自分の人生が楽しい」【インタビュー】

舞台・ミュージカル2024年11月20日

 ドラマ・映画・舞台と数多くの作品で活躍する生駒里奈が、ストーリー性のある演劇的な世界観をダンスとJ-POPで作り上げるダンスエンターテインメント集団「梅棒」の最新作、梅棒 19th GIFT「クリス、いってきマス!!!」に出演する。生駒に … 続きを読む

史上最年少!司法試験に合格 架空の設定ではないリアルな高校2年生がドラマ「モンスター」のプロデューサーと対談 ドラマ現場見学も

ドラマ2024年11月17日

 毎週月曜夜10時からカンテレ・フジテレビ系で放送している、ドラマ「モンスター」。趣里演じる主人公・神波亮子は、“高校3年生で司法試験に合格した”人物で、膨大な知識と弁護士として類いまれなる資質を持つ“モンスター弁護士”という設定。しかし今 … 続きを読む

八村倫太郎「俊さんに助けられました」、栁俊太郎「初主演とは思えない気遣いに感謝」 大ヒットWEBコミック原作のサスペンスホラーで初共演『他人は地獄だ』【インタビュー】

映画2024年11月15日

 韓国発の大ヒットWEBコミックを日本で映画化したサスペンスホラー『他人は地獄だ』が、11月15日から公開された。  地方から上京した青年ユウが暮らし始めたシェアハウス「方舟」。そこで出会ったのは、言葉遣いは丁寧だが、得体のしれない青年キリ … 続きを読む

「光る君へ」第四十三回「輝きののちに」若い世代と向き合うまひろと道長【大河ドラマコラム】

ドラマ2024年11月15日

 NHKで好評放送中の大河ドラマ「光る君へ」。11月10日に放送された第四十三回「輝きののちに」では、三条天皇(木村達成)の譲位問題を軸に、さまざまな人間模様が繰り広げられた。  病を患い、視力と聴力が衰えた三条天皇に、「お目も見えず、お耳 … 続きを読む

「ローマの共和制の問題点は、今の世界が直面している数々の問題と重なる部分が多い」『グラディエーターⅡ 英雄を呼ぶ声』コニー・ニールセン【インタビュー】

映画2024年11月15日

 古代ローマを舞台に、皇帝の後継者争いの陰謀に巻き込まれ、剣闘士(グラディエーター)として壮絶な戦いに身を投じる男の姿を描いたスペクタクルアクション『グラディエーター』。巨匠リドリー・スコットが監督し、アカデミー賞で作品賞や主演男優賞など5 … 続きを読む

Willfriends

page top