【インタビュー】映画『ベルリン・アレクサンダープラッツ』ブルハン・クルバニ監督「難民や移民のコミュニティーに、顔や声を与えることで、彼らを無視できない存在にしたかった」

2021年5月17日 / 06:30

 不法移民としてアフリカからドイツに渡って来たフランシス(ウェルケット・ブンゲ)。彼は、真面目に生きることを心に誓うが、難民生活は過酷で、やがて麻薬の売人ラインホルト(アルブレヒト・シュッヘ)と接触を持つようになる。だが、フランシスは、ミーツェ(イェラ・ハーゼ)と出会ったことで、何とか自分の運命を変えようともがくが…。1929年に出版されたアルフレート・デーブリーンの小説『ベルリン・アレクサンダー広場』を、現代に置き換えて描いた『ベルリン・アレクサンダープラッツ』が、5月20日からオンライン上映される。配信を前に、ブルハン・クルバニ監督に話を聞いた。

ブルハン・クルバニ監督

-映画監督を志した理由は?

 実は、この映画と関係があります。この映画の原作が、高校の卒業論文の題材だったんです。それで、2年間相対したのですが、当時はこの小説が嫌いでした。両親が、アフガニスタンに戻って医師として活動してほしいと願っていたので、医療関係の道を目指していましたが、卒論がうまく書けなかったおかげで、その道には進めませんでした。それが、結果的に今回の映画化にもつながったわけです(笑)。

 映画学校に入ったときも、同じことを聞かれました。「他にもいろんなメディアがあるのになぜ映画なのか」と。でも、僕は「映画のすてきなところは、全てをコントロールすることができて、自分の世界を作り出せることだ」と答えました。ビジュアルもサウンドも衣装デザインも、自分たちで作り出せることが、映画作りの魅力なのだと思います。もし映画の道に進んでいなかったら、ビデオゲームの作り手になっていたかもしれません。

-原作は、1920年代に書かれた古典文学です。なぜ今この話を、舞台を現代に移し、黒人の難民を主人公にして描こうと考えたのでしょうか。それは、監督自身がアフガニスタン人難民の息子ということも強く影響しているのでしょうか。

 原作は文学としても傑作だと思いますし、クオリティーも高いので、いつの時代にも通用する物語だと思います。設定を現代に移したのは、それが自分の生きている時代だからです。主人公を難民にしたのは、自分の親が難民であり、彼らの体験を自分なりに理解していると感じたからです。もう一つの理由は、社会から無視されている難民や移民のコミュニティーに、顔や声を与えることで、彼らを無視できない存在にしたかったからです。この物語の力はとても強いので、ジャーナリストなども、彼らのことを無視ではなくなると考えて、こうした形にしました。

 また、この映画には、ギャング物やフィルムノワールの要素もありますが、僕は、アメリカの監督たちは移民や難民の問題を描くときに、このジャンルをとても上手に使っていると感じています。例えば、『ゴッドファーザー』(72)や『スカーフェイス』(83)のように。今回はそれと同じような試みをしてみました。

-では、映画化に当たって、原作とマッチしない部分はありましたか。

 原作は傑作ですが、同時にモンスターでもあります。本当にたくさんのテーマや問題が内包されていて、かつてライナー・ベルナー・ファスビンダーが15時間あまりの『ベルリン・アレクサンダー広場』(80)を作りましたが、全てを語り尽くすことはできませんでした。今回、自分が、表現できなくて残念だったと思うのは、原作の持つ、意識の流れを描いた美しい筆致です。それを映像化することはとてもできませんでした。

-オープニングのライティングやカメラワークがとても斬新でした。どういう意図であのシーンを撮ったのでしょうか。

 オープニングは、スクリプトエディターが「これはフランシスにとっては、自分の身に何が起こっているのかが分からず、重大なトラウマとなる瞬間」だと言ったので、あえて逆さまに撮ってみました。サウンドデザインも、なるべく観客が居心地の悪さを感じるような設計にしています。映画はチームで作っているので、いろいろな人のアイデアが入っています。この映画も、いいアイデアは僕以外の人から出ています。

 終盤でラインホルトとミーツェが森の中に入っていくときの音の設計も、同じような感じにしました。ラインホルトがいる世界は一種の地獄なので、その音を作るために、サウンドデザイナーは、最初に録った音を全部捨てて、駅の雑踏の音などを使ってサウンドコラージュを作りました。それはなぜかというと、これがドイツの地獄であれば、列車に押し込まれたり、押し出される人は、ホロコーストを連想させるからです。

 
  • 1
  • 2

特集・インタビューFEATURE & INTERVIEW

宮藤官九郎「人間らしく生きる、それだけでいいんじゃないか」 渡辺大知「ドラマに出てくる人たち、みんなを好きになってもらえたら」 ドラマ「季節のない街」【インタビュー】

ドラマ2024年4月26日

 宮藤官九郎が企画・監督・脚本を手掛けたドラマ「季節のない街」が、毎週金曜深夜24時42分からテレ東系で放送中だ。本作は、山本周五郎の同名小説をベースに、舞台となる“街”を12年前に起きた災害を経て建てられた仮設住宅のある“街”へと置き換え … 続きを読む

【週末映画コラム】全く予測がつかない展開を見せる『悪は存在しない』/“反面教師映画”『ゴジラ×コング 新たなる帝国』

映画2024年4月26日

『悪は存在しない』(4月26日公開)  自然豊かな高原に位置する長野県水挽町は、東京からもそう遠くないため移住者が増加し、緩やかに発展している。代々その地に暮らす巧(大美賀均)は、娘の花(西川玲)と共に自然のサイクルに合わせたつつましい生活 … 続きを読む

志田音々「仮面ライダーギーツ」から『THE 仮面ライダー展』埼玉スペシャルアンバサダーに「埼玉県出身者として誇りに思います」【インタビュー】

イベント2024年4月25日

 埼玉県所沢市の「ところざわサクラタウン」内「角川武蔵野ミュージアム」3Fの EJアニメミュージアムで、半世紀を超える「仮面ライダー」の魅力と歴史を紹介する展覧会『THE 仮面ライダー展』が開催中だ。その埼玉スペシャルアンバサダーを務めるの … 続きを読む

岩田剛典 花岡の謝罪は「すべてが集約された大事なシーン」初の朝ドラで主人公・寅子の同級生・花岡悟を熱演 連続テレビ小説「虎に翼」【インタビュー】

ドラマ2024年4月25日

 NHKで好評放送中の連続テレビ小説「虎に翼」。明律大学女子部を卒業した主人公・猪爪寅子(伊藤沙莉)は、同級生たちと共に法学部へ進学。男子学生と一緒に法律を学び始めた。そんな寅子の前に現れたのが、同級生の花岡悟だ。これから寅子と関わっていく … 続きを読む

瀬戸利樹、セラピスト役は「マッチョな体も見どころ」 役作りは「実際に施術を見学して、レクチャーを受けました」

ドラマ2024年4月24日

 現在放送中のドラマ「買われた男」で主演を務める瀬戸利樹が取材に応じ、本作の魅力や役作りについて語った。  本作は、三並央実氏と芹沢由紀子氏による漫画『買われた男~女性限定快感セラピスト~』が原作。セックスレスの主婦、芸能人、女社長、風俗嬢 … 続きを読む

Willfriends

page top