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不法移民としてアフリカからドイツに渡って来たフランシス(ウェルケット・ブンゲ)。彼は、真面目に生きることを心に誓うが、難民生活は過酷で、やがて麻薬の売人ラインホルト(アルブレヒト・シュッヘ)と接触を持つようになる。だが、フランシスは、ミーツェ(イェラ・ハーゼ)と出会ったことで、何とか自分の運命を変えようともがくが…。1929年に出版されたアルフレート・デーブリーンの小説『ベルリン・アレクサンダー広場』を、現代に置き換えて描いた『ベルリン・アレクサンダープラッツ』が、5月20日からオンライン上映される。配信を前に、ブルハン・クルバニ監督に話を聞いた。
実は、この映画と関係があります。この映画の原作が、高校の卒業論文の題材だったんです。それで、2年間相対したのですが、当時はこの小説が嫌いでした。両親が、アフガニスタンに戻って医師として活動してほしいと願っていたので、医療関係の道を目指していましたが、卒論がうまく書けなかったおかげで、その道には進めませんでした。それが、結果的に今回の映画化にもつながったわけです(笑)。
映画学校に入ったときも、同じことを聞かれました。「他にもいろんなメディアがあるのになぜ映画なのか」と。でも、僕は「映画のすてきなところは、全てをコントロールすることができて、自分の世界を作り出せることだ」と答えました。ビジュアルもサウンドも衣装デザインも、自分たちで作り出せることが、映画作りの魅力なのだと思います。もし映画の道に進んでいなかったら、ビデオゲームの作り手になっていたかもしれません。
原作は文学としても傑作だと思いますし、クオリティーも高いので、いつの時代にも通用する物語だと思います。設定を現代に移したのは、それが自分の生きている時代だからです。主人公を難民にしたのは、自分の親が難民であり、彼らの体験を自分なりに理解していると感じたからです。もう一つの理由は、社会から無視されている難民や移民のコミュニティーに、顔や声を与えることで、彼らを無視できない存在にしたかったからです。この物語の力はとても強いので、ジャーナリストなども、彼らのことを無視ではなくなると考えて、こうした形にしました。
また、この映画には、ギャング物やフィルムノワールの要素もありますが、僕は、アメリカの監督たちは移民や難民の問題を描くときに、このジャンルをとても上手に使っていると感じています。例えば、『ゴッドファーザー』(72)や『スカーフェイス』(83)のように。今回はそれと同じような試みをしてみました。
原作は傑作ですが、同時にモンスターでもあります。本当にたくさんのテーマや問題が内包されていて、かつてライナー・ベルナー・ファスビンダーが15時間あまりの『ベルリン・アレクサンダー広場』(80)を作りましたが、全てを語り尽くすことはできませんでした。今回、自分が、表現できなくて残念だったと思うのは、原作の持つ、意識の流れを描いた美しい筆致です。それを映像化することはとてもできませんでした。
オープニングは、スクリプトエディターが「これはフランシスにとっては、自分の身に何が起こっているのかが分からず、重大なトラウマとなる瞬間」だと言ったので、あえて逆さまに撮ってみました。サウンドデザインも、なるべく観客が居心地の悪さを感じるような設計にしています。映画はチームで作っているので、いろいろな人のアイデアが入っています。この映画も、いいアイデアは僕以外の人から出ています。
終盤でラインホルトとミーツェが森の中に入っていくときの音の設計も、同じような感じにしました。ラインホルトがいる世界は一種の地獄なので、その音を作るために、サウンドデザイナーは、最初に録った音を全部捨てて、駅の雑踏の音などを使ってサウンドコラージュを作りました。それはなぜかというと、これがドイツの地獄であれば、列車に押し込まれたり、押し出される人は、ホロコーストを連想させるからです。
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