【インタビュー】『ロケットマン』デクスター・フレッチャー監督「最も大切にしたことは、エルトンを怒らせないようにすることでした(笑)」

2019年8月20日 / 10:00

 数々の名曲を生み出したスーパースター、エルトン・ジョン(タロン・エガートン)の半生を描いた『ロケットマン』が8月23日から公開される。監督は大ヒット作『ボヘミアン・ラプソディ』の最終監督を務めたデクスター・フレッチャー。日本公開を前に来日した彼に、本作に込めた思いを聞いた。

デクスター・フレッチャー監督

-『ボヘミアン・ラプソディ』と本作と、ミュージシャンの映画が続いたことについて、どう思いますか。

 その話は軽く…(笑)。実は、もともとは『ロケットマン』の企画が先にあって、その準備をしていたところに、『ボヘミアン・ラプソディ』が難航しているということで、急きょ呼ばれたわけです。それで自分なりに全力を尽くしていい作品に仕上げようとは思いましたが、やはり『ロケットマン』のことが気になっていました(笑)。これは裏話になりますが、5年ほど前に『ボヘミアン・ラプソディ』の監督のオファーがありましたが頓挫しました。それで何か音楽物をやりたいと考えて『ロケットマン』に取り組んでいました。ですから、意図的にミュージシャンの映画を続けて撮ったわけではありません。

-今回なぜエルトン・ジョンの曲をミュージカル風に表現しようと考えたのでしょうか。

 『ボヘミアン・ラプソディ』の場合は、自分が関わった時点ですでに脚本が出来上がっていました。その構成は、第三者の立場から「クイーンが成功しました。来日しました。世界ツアーに出ました。ライブエイドがありました…」というふうに、時系列に沿って描いていくものでした。今回はそうした客観的なものではなく、エルトンの人生を、その浮き沈みも含めて、彼自身の視点で振り返るという構成です。となると、ミュージカルの方が表現しやすいのではないかと考えました。そこから始まったことですが、そもそもエルトンは、音楽の天才であり、型破りな創造性の持ち主であり、規格外の人です。ですから単に出来事を追うのではなく、そんな彼の人となりや、内面、そしてソウル(魂)にフォーカスしたかったのです。そういう意味でもミュージカルという表現が最も適していると思いました。

-エルトン役のタロン・エガートンについてはどう思いましたか。

 まず、彼は一緒に仕事をしていてとても楽しい人です。ものの考え方や価値観など、互いに通じ合える部分がたくさんあります。私自身が俳優だったこともあり、多くを語らなくても通じ合えるところがあります。また、私の監督としてのスタイルを理解した上で、私が行き詰まったり、自信を失くしているときには励ましてくれたり、支えてくれたりもする素晴らしい友でもあります。実は、監督と主演俳優は、それぞれの立場で映画を背負っているので、プレッシャーがあり、孤立している部分もあるので、とても孤独なポジションにいます。ですから、互いに励まし合ったり、鼓舞し合えるような関係は大切なのです。

 また、タロンには冒険やリスクを恐れないところがあります。例えば、監督として「こんなクレージーなアイデアがあるんだけど」と持ち掛けたときに、「それは無理だよ」と言う人よりも、「やろうぜ!」と言ってくれる人の方が、互いを高め合えます。そうしたことが、いい作品を作る上では必要なのです。

-では、この映画の中で、クレージーなアイデアはどのシーンで実行したのでしょうか。

 トルバドール(ロサンゼルスのライブハウス)での「クロコダイル・ロック」で、タロンの足が地上から浮き上がるのはかなりクレージーなシーンだと思いますし、水深20メートルぐらいの水槽にタロンをぶち込んで、背中で「ロケットマン」を歌わせるシーンもビジュアル的には素晴らしいけど、かなり大胆な演出だったと思います。

 何より、今回はタロンが歌もさることながら、演技の面でも本当に素晴らしい仕事をしました。彼には勇敢なところがあって、エルトンを演じること自体に、窓ガラスのない高層ビルの窓際に立って、一歩踏み間違えたら下に落ちるけど、ひょっとしたら空を飛べるかもしれないという賭けの部分があったと思いますが、彼はそれを全く恐れませんでした。もしかしたら大変な失敗をするかもしれないけど、とりあえず思い切ってやってみようというような、覚悟みたいなものが感じられました。その覚悟が、エリザベス女王の衣装に身を包んで舞台に飛び出すことや、家族や親戚をパンツ一丁で出迎えるシーンも、全くためらうことなく演じることにつながったのだと思います。それがエルトンのありのままの姿を演じるためには必要だと思えばこそ、彼にはそれができたのです。

-監督は『ダウンタウン物語』(76)の子役から俳優としての長いキャリアがありますが、ご自身が俳優であることは演出にプラスになっていますか。

 私は監督としてはスタートが遅かったので、いまだに、レンズの違いや、フォーカスの合わせ方など、技術的な面では分からないことがたくさんあります。そのためにプロのスタッフが付いてくれていますが(笑)。それはそれとして、やはり俳優として長年やってきたことは、監督としては大きなプラスになっていると思います。俳優とのつながりで言えば、彼らが演じる上でどういう問題を抱えているのか、どういう気持ちでいるのかはよく分かります。ですから、より親密な関係を築いた上で、作品を作っていけるというメリットがあります。

 俳優業には不確定な要素があって、緻密なリサーチを重ねて役作りをして臨んでも、他者との絡みも含めて、実際にカメラが回って演じ始めるまで、どうなるか分からない部分がたくさんあります。そうしたことも含めて、自分がそれを理解した上でカメラを回せることは、俳優にとってもやりやすいし、私にしても俳優から刺激をもらったり、学ぶことも多いです。監督も俳優も、それぞれが違ったスタイルを持っています。その中で、試行錯誤をしながら映画を作っていくプロセスが私はとても好きです。

 
  • 1
  • 2

特集・インタビューFEATURE & INTERVIEW

【週末映画コラム】『六人の嘘つきな大学生』/『アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師』(11月22日公開)

映画2024年11月22日

『六人の嘘つきな大学生』(11月22日公開)  大手エンターテインメント企業「スピラリンクス」の新卒採用の最終選考に残った6人の就活生への課題は「6人でチームを作り、1カ月後のグループディスカッションに臨むこと」だった。  全員での内定獲得 … 続きを読む

生駒里奈が語る俳優業への思い 「自分ではない瞬間が多ければ多いほど自分の人生が楽しい」【インタビュー】

舞台・ミュージカル2024年11月20日

 ドラマ・映画・舞台と数多くの作品で活躍する生駒里奈が、ストーリー性のある演劇的な世界観をダンスとJ-POPで作り上げるダンスエンターテインメント集団「梅棒」の最新作、梅棒 19th GIFT「クリス、いってきマス!!!」に出演する。生駒に … 続きを読む

史上最年少!司法試験に合格 架空の設定ではないリアルな高校2年生がドラマ「モンスター」のプロデューサーと対談 ドラマ現場見学も

ドラマ2024年11月17日

 毎週月曜夜10時からカンテレ・フジテレビ系で放送している、ドラマ「モンスター」。趣里演じる主人公・神波亮子は、“高校3年生で司法試験に合格した”人物で、膨大な知識と弁護士として類いまれなる資質を持つ“モンスター弁護士”という設定。しかし今 … 続きを読む

八村倫太郎「俊さんに助けられました」、栁俊太郎「初主演とは思えない気遣いに感謝」 大ヒットWEBコミック原作のサスペンスホラーで初共演『他人は地獄だ』【インタビュー】

映画2024年11月15日

 韓国発の大ヒットWEBコミックを日本で映画化したサスペンスホラー『他人は地獄だ』が、11月15日から公開された。  地方から上京した青年ユウが暮らし始めたシェアハウス「方舟」。そこで出会ったのは、言葉遣いは丁寧だが、得体のしれない青年キリ … 続きを読む

「光る君へ」第四十三回「輝きののちに」若い世代と向き合うまひろと道長【大河ドラマコラム】

ドラマ2024年11月15日

 NHKで好評放送中の大河ドラマ「光る君へ」。11月10日に放送された第四十三回「輝きののちに」では、三条天皇(木村達成)の譲位問題を軸に、さまざまな人間模様が繰り広げられた。  病を患い、視力と聴力が衰えた三条天皇に、「お目も見えず、お耳 … 続きを読む

Willfriends

page top