『図書館戦争』などで知られる人気作家・有川浩のベストセラー小説を映画化した『旅猫リポート』が10月26日に全国公開された。有川自身が脚本を手掛けた本作は、猫のナナと飼い主の青年・悟の旅を描いた心温まるロードムービーだ。主人公の悟を演じるのは、「あまちゃん」(13)、『曇天に笑う』(18)などで活躍する人気若手俳優・福士蒼汰。自ら“動物好き”と話し、劇中でも役と自身が重なるような好演を披露した福士が、撮影の舞台裏を語ってくれた。
-猫のナナと悟の絆が心に残る作品でした。初めて会ったときのナナの印象は?
(三木康一郎)監督と最初にお会いしたときがナナとも初対面だったのですが、かわいかったです。ただ、自分は犬を飼ったことはあったのですが、猫は初めてで。最初はどう接したらいいのか分からず、緊張しました。
-そこからどのように距離感を詰めていきましたか。
毎日、撮影で会っているうちに慣れていったことに加えて、猫のトレーナーの方がナナを扱う様子を見て勉強しました。
-ナナとのお芝居は、人間相手と違って苦労も多かったのでは?
もちろん、猫が台本を読んでその通りに動くわけではないので、人間が相手のお芝居とは違います。ただ、自分は普段から動物を見ると話し掛けてしまうような性格なので、それほど大変ではありませんでした。現場全体も、ナナからいい表情を引き出そうと一つになっていたので、気分が乗らずにナナがそっぽを向いてしまうようなときでも、苦にせず待つことができました(笑)。
-優しいイメージのある福士さんが悟に重なって見えました。役作りという意味で、ご自身と悟の距離感はどんなものだったのでしょうか。
半分ぐらいは自分です(笑)。そういう意味では、最近演じることが多かったキャラクター性の強い役とは全く違います。というのも、初めてお会いしたときに監督が「普段の福士くんを役に近づければいい」とおっしゃってくださったんです。だから、役を作り込むよりも、自分自身の動物好きな部分や普段の人との接し方をベースに、他のキャラクターとの関係性を深めていくことを重視しました。
-その点、演じる難しさもあったのでは?
普段だったら難しかったと思います。キャラクターを背負った場合はそれを成り立たせればいいのですが、自分をベースにするとなると、逆にどうすればいいのか…。ただ今回は、ナナが一緒にいてくれたので助かりました。ナナのおかげでリラックスできて、ネガティブな要素を取り除くことができたんです。だから、変な緊張感もなく、自然に演じることができました。
-逆に、ナナのかわいらしさにテンションが上がる部分はありましたか。
はい。ナナや出演している動物たちと一緒にいるときは、普段の自分がかなり出ていると思います(笑)。
-ナナの声は高畑充希さんが演じていますね。
高畑さんの声質やしゃべり方が完全にナナになじんでいて驚きました。ナナはオスですが、高畑さんの声がぴったりハマっていて、さらにかわいく見えました。
-監督からは役作りに関してどんなお話が?
最初に「そのままでいいよ」とおっしゃってくださったこともあり、現場で細かい指示はなく、広い視野でお芝居を見てくださって、その枠内に収まっていればOKという感じでした。とてもやりやすい環境を作ってくださいました。
-物語が進むにつれ、悟の秘密が明らかになり、心情的にも次第に変化していきます。その辺りは演じる上でいかがでしたか。
あまり意識しないようにしました。物語の進行に合わせてそういう変化は自然と見えてくるものなので、演じる上では意識しない方がいいだろうと。だから、悟の変化は踏まえつつ、基本的には常に前向きな気持ちでいることを心掛けました。
-ロードムービーに出演した感想は?
楽しかったです。ここまで本格的な旅をする作品は初めてで、劇中でこんなに車を運転したことも今までなかったので。運転は好きなので、かなりワクワクしました(笑)。
-舞台も次々と移って、共演する相手も変わっていきますね。
RPG(ロール・プレイング・ゲーム)をやっているみたいでした(笑)。一つずつミッションをクリアして、また新しい場所に行く、みたいな…。いろいろな人とお芝居ができて楽しかったし、現代だけでなく、過去のパートがあったのも良かったです。特に大野拓朗さん、広瀬アリスさんと一緒だった高校時代の場面は「青春だなぁ…」と思いながら演じていました。
-舞台となる各地の風景も美しかったです。風景から気持ちが引き出される部分はありましたか。
富士山や菜の花畑は、やっぱりきれいでした。他にもビジュアル的にインパクトの大きい場所が多かったので、素直に心動かされる部分はありました。CGで作ったものとは違うので、「すてきだな…」という感情も自然に湧いてきましたし…。ただ、演じている自分たちは、その場にいることが意外に役として当たり前に感じていたりするので、劇場の大きなスクリーンで見るお客様の方が、より心を動かされるかもしれません。
-この作品を通じて伝えたいことは?
猫のかわいさが見どころなのはもちろんですが、それだけでなく、猫と人間、人間と人間のつながりがしっかり描かれています。愛情がたっぷり詰まった作品なので、猫も人間も関係なく、大事な相手とどう接していくのか、見詰め直してもらういい機会になったらうれしいです。
(取材・文/井上健一)