突然社長の座を解任された65歳の主人公が、第二の人生を共に歩むパートナー捜しを始める。そこに35歳の美人編集者が現れて…という、広島を舞台にした婚活ラブコメディー『こいのわ 婚活クルージング』が11月18日から全国順次ロードショーされる。本作で、パワフルで破天荒な主人公・門脇誠一郎を演じた風間杜夫が、婚活、コメディー演技、相手役の片瀬那奈などについて語った。
-本作のテーマである、第二の人生、婚活について、演じながら感じたことは?
今回、婚活に力を注いでいる広島県の活動を、実際に見聞きしたわけですが、僕自身は、婚活に関して近い距離感は持っていませんでした。ただ、周りの人に話を聞くと、例えば「子どもが結婚しないで困っちゃう」「早く身を固めてほしい」「孫の顔が見たい」というような親御さんがたくさんいます。結婚離れが社会現象化している。まあ、結婚しても生活が苦しくなるばっかりだとか、いろんな事情があるとは思うんですけど…。この映画はそういう問題が物語の一つの柱になっていますが、ラブコメディーですから、いい年になったバツイチの、ちょっと傲慢(ごうまん)で嫌味なおとっつぁんが(笑)、婚活を始めて心がほどけていくところを、できるだけ楽しく演じたつもりです。
-ご出身は東京、全編広島弁のせりふは大変だったのではありませんか。
もちろん方言指導の方がそばに付いて、いろいろと教えてくださったんですけど、僕らは広島というと『仁義なき戦い』のイメージがあるので、前からしゃべってみたい方言ではありました。そのせいか、それほど苦労はしませんでした。方言指導の方から見れば「ちょっと違う」と思われているところはあるかもしれませんが(笑)。今回は広島弁をしゃべることも楽しかったですね。
-金子修介監督が「風間さんはジャック・レモン、片瀬那奈さんはゴールディ・ホーンのイメージを重ねて撮った」と語っていたそうですが。
それを監督から直接聞いたことはなかったなあ。まあ、この映画のテイストをハリウッド映画に置き換えたらそういう感じになるのかなとは思います。コメディーは大昔のチャップリンから見ていて、ジャック・レモンも好きですけど、僕らの世代は、ハリウッド映画でいえば、やっぱりマーロン・ブランドやロバート・デ・ニーロに随分影響されました。どちらかというと『ゴッドファーザー』(72)みたいな映画に魅かれますね。
-風間さんはコメディーをとてもうまく演じる印象が強いのですが…。
僕はコメディアンじゃありませんよ(笑)。でも喜劇は好きです。今も一人芝居をやっていますが、笑いの多い芝居を作りたがっていますね。僕自身、かっちりとした二枚目はやっていても詰まらないし、どこか抜けているというか、ゆがんでいる人間を演じる方が面白いと思っていて、その方が滑稽味も出ますしね。だから寅さん(『男はつらいよ』)は本当に好きでした。「こんな人が親戚にいたら絶対に迷惑だ」みたいなおっさん(笑)。でも見ている分には楽しいという。
-では、コメディーを演じる際のコツのようなものはありますか。
喜劇は、喜劇だと思ってやったら詰まらない。あくまでもシリアスに演じる。そこから出てくるおかし味が勝負だと思うんです。僕はコメディアンでも芸人でもないですから、笑わせてやろうではなく、お芝居で見ている人に笑ってもらおうという思いで演じています。喜劇ほど真剣に演じなければと思っています。今回もそれに通じるものがありました。今回面白かったのが、僕が社長を解任されるシーンで、(秘書役の)八嶋(智人)くんが、コメディータッチの芝居をやろうとしたら、監督がそばに来て「八嶋くん、ふざけないでください」と。八嶋くんは「俺ふざけているつもりはないんだけどなあ」と、とてもショックを受けたようです(笑)。本人はシリアスに演じているつもりなんでしょうけど、それがおふざけに見えてしまう。つまりその境界線が難しいんです。
-相手役の片瀬さんのコメディエンヌぶりもとても良かったですね。
すっとぼけた感じがとても良かった。彼女は思い切りのいい芝居をします。もちろんメロドラマもできるのでしょうが、こういう闊達(かったつ)な女性をやらせたら、すごくいいなあと思いました。まあ元気な人で、大きな口を開けて笑うところなんかも(笑)楽しかったですね。
-これから映画を見る人たちに向けて一言お願いします。
ラブコメディーであり、ファンタジーでもあり、肩の凝らない映画です。僕がこういう役をやったから、というわけではありませんが、伴侶を亡くされた方、あるいは、まだ一度も結婚されたことがないというご高齢の方も、ぜひ婚活ツアーに参加されてみてはと思います。せっかくの一生なんですから、良きパートナーを見付けて、豊かに人生を過ごしましょうよと。この映画を見てそんなふうに感じていただけたらと思います。
-続編ができてもいいようなラストシーンでしたが…。
その後この2人がどうなったかと。でもそれは僕のお葬式のシーンから始まった方がいいですね(笑)。そこから回想になって…。彼女がその後どういうふうに生きていくのか。今度は彼女が婚活に走ったりして…(笑)。
(取材・文・写真/田中雄二)