【インタビュー】『ベイビー・ドライバー』アンセル・エルゴート「今までやってきたことはこの役を演じるための準備だったのかもしれません」

2017年8月21日 / 16:57

 音楽を聴きながら驚異の運転テクニックを発揮する犯罪組織の若きドライバーの活躍を描いた話題作『ベイビー・ドライバー』が公開された。主人公のベイビーを演じた期待の若手俳優アンセル・エルゴートが来日し、エドガー・ライト監督の印象や、音楽へのこだわりなどを語った。

天才ドライバーを演じたアンセル・エルゴート

-『キャリー』(13)、『きっと、星のせいじゃない。』(14)、『ダイバージェント』シリーズなど、これまで出演した作品とは異質の役柄でしたが、どのように役づくりをしましたか。

 まずエドガー・ライト監督と一緒に仕事ができたことがとても幸運でした。実は、オーディションの段階では何を求められているのかよく分かりませんでした。でも、役に決まって、撮影前にエドガーからいろいろなことを教わる中で、この役は自分に合っているんだ、と実感することができました。ですから、撮影が始まってからも、ただエドガーを信頼して演じればいいという気持ちでした。この映画のベイビーは、自分が俳優としてずっと夢に見てきたような特別な役柄でした。今までやってきたことはこの役を演じるための準備だったと、言っても過言ではないような気がしています。

-では、そのエドガー・ライト監督についての印象は?

 エドガーと初めて会った時は、音楽の話で盛り上がりました。それでミーティングの最後に「そんなに音楽が好きならぜひ君に読んでほしい脚本がある」と言われました。それは、映画のサントラで使う予定の楽曲をiPodに入れ込んだ脚本でした。つまり音楽を聴きながら脚本を読むことができたのです。これはすごいと思いました。そこからベイビーというキャラクターのトーンもしっかりと伝わってきたし、これは特別な作品になると思いました。

-映画フリークとしても有名なエドガー監督から、今回見ることを薦められた作品はありましたか。

 『ブリット』(68)、『トランザム7000』(77)、『俺たちに明日はない』(67)、『ドライヴ』(11)、『フレンチ・コネクション』(71)…。オフィスに大きなモニターがあって、昔の作品のクリップを見られるような態勢になっていました。今はYouTubeでどんなものでも見られるから、エドガーが、さまざまな作品のイケてるシーンを、「これなんだよ!」と言いながら見せてくれました。エドガーは、他の映画をたくさん知っていて、その作品のいいところをうまく取り入れることができる。そこが彼の素晴らしいところです。

-この映画は、音楽とアクションが一体化したようなとてもユニークな作品ですね。

 どのシーンでも、動きや振り付けが決まっていて、それを演技に加えなければなりませんでした。それは一つの挑戦でしたが、同時にとてもワクワクしました。だからこそ、とてもユニークな作品に仕上がったのだと思います。僕は、始めはダンサーとして活動していたので、自分の強みはアクションなのかなと思っています。ですから、この映画が、せりふだけではなく、アクションが大きな部分を占めているところに興味を持ちましたし、そこが演じていて楽しい部分でもありました。演じた後も、どんなふうに仕上がっているのだろうと、とても楽しみでした。

-既成の曲が効果的に使われていましたが、中でもベイビーがコモドアーズの「イージー」を口ずさむシーンがとても印象に残りました。

 実は「イージー」は、もともと大好きで、僕にとっては特別な曲でした。最終オーディションの時に、曲に合わせてアドリブの演技を披露することになり、エドガーから「自分の好きな曲で、ベイビーも好きそうな曲でやってみて」と言われました。それで「イージー」に合わせてアドリブで演じてみたらその場の空気が変わったんです。エドガーも「僕も大好きな曲だよ!」と。それからしばらくしてベイビー役に決まったのですが、改稿された脚本の中に「イージー」を使うシーンが入っていました。

-ケビン・スペイシー、ジェイミー・フォックスら、ベテラン俳優と共演した感想は?

 2人が演じたのは怖いキャラクターですが、同時にユーモアも感じさせます。実際の彼らもユーモアのセンスが素晴らしいです。現場での仕事はもちろん、どんな状況でも楽しんでやろうという気概があります。この仕事で長く成功し続けているのは、決して偶然ではなく、彼らが人を楽しませながら自分も楽しむという姿勢を持ち続けているから。そういう気持ちがなければ駄目だと思います。今回は、物事を深刻に受け止め過ぎないことも重要だと学びました。彼らには俳優としての遊び心があります。それがスクリーンを通して観客にも伝わるのではないでしょうか。

-実生活でもベイビーと同じようにスピード派ですか。それとも安全運転派ですか。

 今回、現場で優秀なスタントドライバーたちに囲まれて運転しながら気付いたことは、公道では運転が下手な人がたくさんいるということでした(笑)。僕はスピード派ではないけれど、今回は車を運転したり止めたりする際のさまざまなテクニックを学ぶことができたので、今でも時々駐車場などでこっそりやってみることがあります。運転中は、渋滞などでストレスを感じることも多いので、ベイビーとは違って、ビル・ウィザースの「ラブリー・デー」のような気持ちを落ち着かせてくれる曲を聴いています。

-続編が期待できそうなエンディングでしたね。

 この映画の、ちょっとドリーム感のある、これは現実なのかな、という感じのエンディングが大好きです。ベイビーが犯した罪の代償を払うという公平な結末も気に入っています。僕も続編への限りない期待を抱かせるエンディングだと思います。もしエドガーがまたやりたいと言ったら、ぜひ参加したいですね。そうしたらまたすごいキャストと一緒に仕事ができるかもしれないですし(笑)。

(取材・文・写真/田中雄二)

『ベイビー・ドライバー』全国公開中 配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント


特集・インタビューFEATURE & INTERVIEW

グイ・ルンメイ、真利子哲也監督「お互いが思い合うからこそすれ違う。でもそこには愛があるという家族の形を描きたかった」『Dear Stranger/ディア・ストレンジャー』【インタビュー】

映画2025年9月12日

 ニューヨーク・ブルックリンで暮らすアジア人夫婦を主人公に、息子の誘拐事件をきっかけに夫婦の秘密が浮き彫りとなり家族が崩壊していく姿を、全編NYロケで描いた『Dear Stranger/ディア・ストレンジャー』が、9月12日から全国公開され … 続きを読む

【物語りの遺伝子 “忍者”を広めた講談・玉田家ストーリー】(3)無鉄砲小僧、恐れを知らぬ行動力

舞台・ミュージカル2025年9月12日

 YouTubeもNetflixもない時代、人々を夢中にさせた“物語り”の芸があった——。“たまたま”講談界に入った四代目・玉田玉秀斎(たまだ・ぎょくしゅうさい)が、知られざる一門の歴史物語をたどります。 ▼無鉄砲小僧、恐れを知らぬ行動力 … 続きを読む

北村匠海 連続テレビ小説「あんぱん」は「とても大きな財産になりました」【インタビュー】

ドラマ2025年9月12日

 NHKで好評放送中の連続テレビ小説「あんぱん」。『アンパンマン』を生み出したやなせたかしと妻・暢の夫婦をモデルにした柳井のぶ(今田美桜)と嵩(北村匠海)夫婦の戦前から戦後に至る波乱万丈の物語は、ついに『アンパンマン』の誕生にたどり着いた。 … 続きを読む

中山優馬「僕にとっての“希望”」 舞台「大誘拐」~四人で大スペクタクル~の再始動で見せるきらめき【インタビュー】

舞台・ミュージカル2025年9月11日

 中山優馬が主演する舞台「大誘拐」~四人で大スペクタクル~が10月10日に再始動する。本作は、天藤真の小説「大誘拐」を原作とした舞台で、2024年に舞台化。82歳の小柄な老婆が国家権力とマスコミを手玉に取り、百億円を略取した大事件を描く。今 … 続きを読む

広瀬すず「この女性たちの化学反応は一体何なんだという、すごく不思議な感覚になります」『遠い山なみの光』【インタビュー】

映画2025年9月9日

 ノーベル文学賞受賞作家カズオ・イシグロが自身の出生地・長崎を舞台に執筆した長編小説デビュー作を、石川慶監督が映画化したヒューマンミステリー『遠い山なみの光』が9月5日から全国公開された。1950年代の長崎に暮らす主人公の悦子をはじめ、悦子 … 続きを読む

Willfriends

page top