高田郁の同名小説を基に、天涯孤独な澪が料理の腕一本を頼りに大坂から江戸に行き、艱難(かんなん)辛苦を乗り越え、やがて一流の料理人になるまでの波瀾(はらん)万丈な人生を描いた、NHKの土曜時代ドラマ「みをつくし料理帖」。本作で、吹き替えなしで料理シーンに挑むなど、見事に澪を体現した黒木華が、役づくりの苦労について、また“昭和顔”と呼ばれることへの素直な思いや、師匠ともいえる演出家の野田秀樹から授かった女優を続ける上での金言などを明かした。
-役づくりのために、クランクイン前に料理を一から習ったそうですね。
出汁の引き方やお米の炊き方などを基礎から教えていただきましたし、家では和包丁の使い方に慣れるために、大根を買い、何度もかつらむきをしました。教えていただいたことは普段から使えることばかりなので、勉強になりました。
-料理以外の役づくりとして、特にこだわった点は?
やはり着物での所作には気をつけています。生活に染みついた、手慣れた動きに見えるようにするにはどうすればいいかを常に考えていますし、そのために料理のレッスンは着物でやっていました。
-澪が困った時によく見せる“下がり眉”がかわいらしく、こちらにもこだわりを感じますが。
下がり眉が澪のアイデンティティーで、原作を読んだ時もそこがすごくチャーミングだと感じたので、鏡を見て練習をして、撮影では気持ちを大切にし、意識して眉を下げるようにしました。
-明るくひた向きに料理の道を進む澪ですが、ご自身と共通する部分はありますか。
澪は料理に対してですが、譲れない情熱や芯の強さを持っているところは似ています。と言っても、私の方は少しさぼりがちですけど(笑)。でも、真っ直ぐに何かと向き合う姿勢は尊敬できるし、自分もそうありたいと思います。
-黒木さんの料理の腕前は?
煮物や煮魚が好きなので、普段からよく作ります。以前は夜中にうどんを打っていましたが、最近は夜、シフォンケーキなどのお菓子を作っています。
-夜にお菓子作りをする理由は?
無になりたい時や(心が)ザワザワしている時は眠れないので、別のことをしている方が生産的だと思って…。料理をしている時は仕事のことを考えなくていいんです。
-澪の料理の原点はかゆですが、黒木さんにとって忘れられない家庭の味は何ですか。
母はすごく料理が上手で、何でもおいしいので…。強いて言えば、実家に帰ったら必ず家族で作るギョウザですかね。みんなで会話をしながら一緒に作るということも好きです。
-上方と江戸の文化や味の違いに悩む澪ですが、大阪出身の黒木さんは上京して戸惑ったことはありますか。
今の時代はそんなに変わることもないと思いますが、東京の電車の中は割と静かだと思いました。あと、初めて渋谷に行った時に、駅でそばを食べたんですが、出汁のしょうゆの味が濃くて、本当に違うんだとびっくりしました。
-澪が思いを寄せる武士・小松原演じる森山未來さんとは初共演ですが、印象は?
本当に色っぽくて、時代劇をやったことがないというのが不思議なぐらい、たたずまいが美しいです。それは(ダンスで)体を使っているからなんでしょうか。舞台作品を見ていてもオーラや華やかさを感じます。
-澪を一途に思う男性として町医者の永田源斉(永山絢斗)も登場しますが、黒木さんは小松原と源斉、どちらが好みですか。
森山さんも絢斗さんも本当に格好良くて、時代物が似合うすてきな男性だと思って見ていますが、私は小松原さんが好きです。今回のドラマにはないのですが、原作には小松原が両思いの澪との恋を、彼女のために諦めるシーンがあって、その大人で切ない恋がすてきでキュンとしました。やっぱり大人な人がいいですね。
-素朴でナチュラルな魅力があることから“昭和顔女優”と呼ばれ、共演の小日向文世さんも「日本髪が本当に似合う」とべた褒めですが、そう呼ばれることについてはいかがですか。
(昭和顔と言われて)すごくうれしい!とまではいきませんが、(その時代を生きている人として)視聴者にストレスなく見てもらえるだろうし、いろんな時代(の役)ができるとポジティブに捉え、ありがたいことだと思っています
-澪は「食は人の天なり」という言葉を大切にしていますが、黒木さんは人生の支えとなる言葉を持っていますか。
「楽しむこと」を忘れないようにしています。それから、私の役者人生が始まったのは野田(秀樹)さんのおかげでもあるので、「女優は自分で考えなくちゃいけない」と言われたことも心にとめています。それはデビュー当時、他の人から「こうした方がいい、ああした方がいい」と言われ、どう演じていいのか分からない…と悩んでいた時だったんですが、結局、役者は自分自身でどう演じるかを選択しなきゃいけないし、その役の責任は自分にあることを教えられました。
-最後に視聴者にメッセージを。
撮影では3キロほどもあるカツオを一からおろすなど、有り難いことに料理のシーンは全部自分でやらせてもらいました。和包丁の持ち方や盛り付けにもこだわって撮ってくださっているので、そんな料理が出てくる場面をぜひ見てください。
(取材・文/錦怜那)