【週末映画コラム】河合優実が見事な演技を披露する『あんのこと』/井浦新がカウボーイ修行をする『東京カウボーイ』

2024年6月7日 / 08:00

『東京カウボーイ』(6月7日公開)

『東京カウボーイ』

 東京でブランドマネジャーとして働くサカイヒデキ(井浦新)は、上司でもある婚約者のケイコ(藤谷文子)と新居を探す一方で、経営不振に陥ったモンタナ州の牧場で和牛を飼育して収益改善を図る計画を立ち上げる。

 ヒデキは神戸牛づくりの名人ワダ(國村隼)をアドバイザーに迎えて現地入りするが、初日にワダがけがをして、説明会や現地視察をヒデキが一人で行うことに。スーツ姿で事業計画をプレゼンするヒデキだったが、祖父の代から牧場を運営するペグ(ロビン・ワイガート)から見込みの甘さを指摘される。

 やがて、牧場の従業員ハビエル(ゴヤ・ロブレス)やその家族との交流をきっかけにスーツを脱ぎ捨てたヒデキは、文化の違いを越えて土地や仕事を理解することの大切さを学んでいく。

 テレビ番組のディレクターやプロデューサーを長年務めてきたマーク・マリオットの長編映画初監督作。自身が『男はつらいよ 寅次郎心の旅路』(89)で、海外現場に参加した際の経験を基に本作を撮り上げたという。共同脚本に藤谷が名を連ねる。

 異文化交流とカウボーイに関する一種のハウツー物。例えば、乗馬、投げ縄、服装、パーティーの場面でヒデキが無理やり飲まされるバタンガ(テキーラ+コーク)というメキシコの酒など、ヒデキを演じる井浦自身が感じたであろう、カルチャーギャップや戸惑いがそのまま役柄に反映されているところが面白い。

 マリオット監督にインタビューした際、この映画はある意味現代の西部劇なので、それに関連した話になった。

 監督は「ウエスタンではないが、表現が控えめで、沈黙も多いという点で、カントリーミュージシャンの話であるロバート・デュバル主演の『テンダー・マーシー』(83)を参考にした」という。

 また、「今回、モンタナのパラダイスバレーという非常に美しい場所で撮影をした。ここはロバート・レッドフォード監督の『リバー・ランズ・スルー・イット』(92)の撮影地でもある。もともと美しい場所だからやり過ぎる必要はない。俳優にそこで自然に演技をしてもらい、ロングショットでリズム感を得ることができれば、あとはクローズアップで処理すればいい。アングルも狙い過ぎず、自制して撮ればいいものは撮れるという意味では参考にした」と話してくれた。こうした背景を知ってから映画を見るとさらに楽しみが増す。

(田中雄二)

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