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『ナポレオン』(12月1日公開)
18世紀末、革命の混乱に揺れるフランス。若きナポレオン(ホアキン・フェニックス)は軍人として目覚ましい活躍を見せ、軍の総司令官に任命される。
そして夫を亡くしたジョセフィーヌ(バネッサ・カービー)と恋に落ち結婚するが、ナポレオンの溺愛ぶりとは裏腹に奔放なジョゼフィーヌは他の男とも関係を持つ。いつしか夫婦関係は奇妙にねじ曲がっていく。
その一方、軍人としてのナポレオンは快進撃を続け、クーデターを成功させて第一統領に就任、ついにはフランス帝国の皇帝にまで上り詰める。
政治と軍のトップに立ったナポレオンと、皇后となり優雅な生活を送るジョゼフィーヌだったが、2人の心は満たされないままだった。やがてナポレオンは戦争にのめり込み、せい惨な侵略と征服を繰り返すようになる。
本作はリドリー・スコット監督が、デビッド・スカルパの脚本を得てフランスの英雄ナポレオン・ボナパルトの人物像を新解釈で描いた歴史スペクタクル。ホアキンはいつもの役ほどではないものの、ここでもエキセントリックな姿を見せる。
壮麗なクラシック音楽が流れる悠揚な長尺の歴史劇を見ていると、時に睡魔に襲われることがあるが、この映画もそうだった。何だかスタンリー・キューブリックの『バリー・リンドン』(75)を見た時と似ていると思ったら、スコット監督は『バリー・リンドン』の大ファンであり、『バリー・リンドン』は、キューブリックがナポレオンを撮るためのリサーチが反映されたものだという。なるほどちゃんとつながった。
この映画で要となるのは、軍人、私人としてのナポレオンの二面性にある。カリスマ的な魅力を持ち、軍才もある一方、彼が率いた戦いで300万人以上が戦死しているという事実。一体彼は英雄なのか悪魔なのか。
スコット監督が「モスクワを征服しようとしている男が、なぜパリにいる妻の行動に気をもんでいるのかと疑問に思った」と製作の動機の一端を語るように、この映画はスペクタクルな戦闘シーンと、ナポレオンとジョセフィーヌとの手紙を軸とした奇妙な夫婦関係を並行して描いているところが面白い。
(田中雄二)